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私と黄金竜の国  作者: violet
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関脇のお手伝い

結局、マリコはシンシアに振られた。

「お母さまと旅の間に、アレクに悪い虫がつくと大変ですから。」


アレクセイは1年後に王位を継ぐことになった。

母親は父親と旅に出した方がいいと判断したらしい。



台所の片隅で関脇が椅子に座って豆の皮を()いている。

「ありがとう、関脇。煮込んでいるお肉の鍋に洗っていれてね。」

声をかけたのはシンシアだ。

明日は竜王国に戻ることになり、マリコとシンシアが料理をしているのを関脇が手伝っている。

ギルバート、アレクセイ、ジョシュアは醸造所に行っていていない。だが、これでもか、というぐらいの防御の魔法を3人で家にかけて行った。

「心配し過ぎる。私達そんなに信頼ないの?」

「お母様、仕方ありませんわ。お母様が一緒ですもの。」

「そうね、心配には答えてあげないとね!」

そこで安心させるマリコではないと、シンシアも関脇も知っている、そしてギルバートもだ。

「お母様、お父様が家から外に出れない魔法もかけてましたわ。」

「出れないの!?」

マリコの言葉にやっぱり、と思うシンシアと関脇だ。


マリコが庭に出る扉を開けようとしても開かない。

ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガチャガチャ。

「母上諦めるってことはしないのですか?」

マリコの扉を開けようとする音に耐えきれなくなったのは関脇だ。

「しないわよ。闘志が沸いてきたわ!」

マリコが2階にあがると、シンシアが悲鳴をあげて追いかけた。

外から防御は家全体にかけてあったが、外に出られないのは1階だけだったらしい。

関脇は台所の火を止めてから向かったので出遅れた。

2階の部屋に飛び込んだ時に、マリコが2階の窓から宙吊りになっているのが目に飛び込んできた。

シンシアが魔法でマリコを支えて落ちないようにしている。

関脇は窓から身体を乗りだすとマリコの手を(つか)み、引き上げようとした。


マリコがイヤな笑いをしたので関脇がぞっとした瞬間、マリコが関脇に掴まれた手を軸として反動をつけると後ろにジャンプした。それに連られたのが関脇だ、一緒に飛び出した。

関脇がマリコと自分を保護術で包み、着地のショックを(やわ)らげる。

「あいたた。」

地面に(たた)きつけられても関脇は何ともないが、マリコの腕には擦り傷で血が出ている。

関脇が防御をかけてなければ、どんな大ケガをしただろうと恐ろしくなる。

「お母様!」

シンシアが駆け寄り治癒魔法をかける。

「ありがとう、シンシア。もう大丈夫よ。脱出成功!」

やった!とばかりに声をあげるマリコに、シンシアも関脇も呆れるばかりである。

「さぁ!買い物に行こう。町に行きたかったの!」



「マリコの血の匂いがする!」

叫んだのはギルバートだ。

ギルバートもアレクセイも瞬時に竜に変わると家に向かった。

目の前で黄金竜に変わった醸造所の人々は驚くばかりだ。

アレクセイは自分達が竜だとは隠していた。しかも黄金竜である、竜王一族のみが黄金竜だと知らぬ者はいない。

残ったジョシュアはブドウの醸造代金を払い、口止めをすると自らも黄金竜に変わり後を追った。

「関脇、二人を守ってくれよ、信じているからな。」


ギルバートとアレクセイは家に向かう途中で二人の香りを拾った。

人間の姿になりながら、辺りの様子を(うかが)って地に降りる。幸い人の気配はないようだ。

少し歩いたところにある店に向かう。


「姉上から離れろ!」

そこに響くのは関脇の声だ。

アレクセイが飛び出しそうなのをギルバートが押さえている。

「あれは破壊竜だ、力で負けることはない。」

「分かっています、だが、シンシアを下種(げす)な男の目に触れさせたくありません。」

「マリコなりに娘を心配しているのだ。」


そこは雑貨店のようだった、男達が関脇によって店から追い出されていた。

物陰からギルバートとアレクセイが固唾(かたず)を飲んで見ている。耳はどんな音も(のが)すまいと神経を集中していた。



「母上はワガママ過ぎます。」

関脇の声が聞こえる。

「姉上が街に出れば男が寄って来るのはわかってました。兄上はそれを心配しているのです。

姉上が大事だから心配しているのです、それはいけない事ですか?」

関脇の声が震えている、泣き声のようだ。

「母上は人間で竜よりずっと弱い、さっきだって少しの衝撃でケガをした。父上が不安になるのは当たり前です。僕だって心臓が止まりそうでした。

大事にしてくれている人を心配させるのが楽しいのですか?」

「関脇。」

シンシアの声も聞こえる。

「えーーん。」

「ほら、泣かないの男の子でしょ、もう大きくなったんだから。」

「姉上ーー!

僕は父上もアレクセイ兄上もジョシュア兄上も心配させたくない。

母上も姉上も大好きだから、不安にさせないで。

えーーん。」



いつの間にかギルバートとアレクセイの後ろに立っていたジョシュアが口元に人差し指を立てて。

「3人に気づかれない内に帰りましょう。」

「そうだな。」

3人の男達が立ち去った後に、店からマリコ達3人が出て来た。

関脇、シンシア、マリコの順に家に向かって歩いている。


家の扉を開け、3人を見つけると関脇がジョシュアに抱きついて泣き始めた。

「関脇、良く頑張ったな。」

ジョシュアが中学生ぐらいの身長になった関脇の頭をなでる。


「ギルバート、ごめんなさい。」

マリコがシュンと項垂(うなだ)れてギルバートに向かう。

「心配したんだよ。」

マリコを抱きしめて泣いているのはギルバートの方だ。

「マリコの血の匂いがして、心配でたまらなかった。」


アレクセイはシンシアのおでこをチョンと突いて、

「心配した。」

ふふふ、と笑うシンシアは、

「心配掛けてごめんなさい、そしてありがとう、来てくれると思ってました。」

シンシアには3人が覗いていた事はバレているようだった。



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