甘い香りのマリコ
マリコの香りが近くからする!
ギルバートは顔をあげた、会いにきてくれたのか!
書類仕事は中断して、香りを辿る。
鼓動が速くなる、身体が痺れるよな高揚に包まれる、マリコに会える。
王宮の下級武官の詰所から香りがする、何故だ?
そこに間違いなくマリコがいた。
何人かの武官達と楽しそうに話している。
私には冷たい態度しかしてくれないのに、笑っている。
「何をしている。」
自分でもビックリするほどの低い声だ。
王がこんなところに来るとは思っていなかったんだろう、振り返り一応に驚いている。
「私に言っているのですか?
仕事の面接にきました。」
マリコが周りを確認し、私に聞いてる?
生活をしなくっちゃいけないしね、と答える。
「マリコの生活は私の側にいることだ。」
「まだ、言っているんですか?もう終わった話ですよ。
第一、後宮のお姫様が側にいるでしょ。」
「行ってないし、行くつもりもない。」
「後宮あるじゃないですか、そんな男の言葉、子供でも信じませんよ。」
しつこーい、と聞こえるように言う。
「本当なんだ、マリコだけなんだ。それより、その男達はなんだ?」
「面接官の方々です。いろいろ教えてもらっているの。」
「私がいるのに、何故に男と話す!?」
もう、めちゃくちゃである。周りは王の状況がわかっていない。
「ギルバートはこの間、もっとひどい事を言ったよね?
私にはこの人達と仕事の事すら話すなと言う。
でも、ギルバートと性的関係のある後宮の女達と仲良くしろって私に言ったのよ!
酷すぎるってわからないの!」
反対の立場になって、やっとわかった。マリコの怒っている意味を。
マリコが他の男と関係する、想像するだけで震えがくる。
マリコを他の男と分け合う、気が狂うだろう。
後宮がある限り、マリコが私を受け入れることはないのだ。
私が後宮を作ったのだ、番に代わるものなどないのに!
「マリコ耐えられないだ。マリコは私の番なんだよ。」
他の男を見ないでくれ、話さないでくれ。
その言葉にぎょっとしたのは周りだ。
「陛下、番が見つかられてのですか!!」
「その番に拒否されている。」
え?
と周りがマリコを見る。
「やーね、だって後宮のあるような男よ、そのうちの一人になるなんて無理よ。」
「そのうちの一人じゃない、唯一だ!」
「ハイハイ、子供を産めるのがでしょ、愛情がなくっても子供作れる男だものね。
後宮があって唯一なんて、言ってて矛盾してるよね。」
「違う、マリコしか愛してない!」
「たくさんの女を侍らすだけあるわねー、上手いわー。皆にそういうのね。」
頭から信じてません、と態度がでている。
王様かわいそう、俺達の国、王様の代で終わるの?
口々に囁きが聞こえる。
「まるで私が悪者じゃない、好きでここに来たんじゃないわ!帰りたい!」
うわ!周りを味方にするってどういう事、私の方が正しいはず、12マタ男に同情の余地なし。
「違う!マリコは何も悪くない。私が浅はかだったんだ。」
仕事は他を探します、とマリコが出ていこうとする。
「待て、他って王宮の外でか。止めてくれ、お願いだ。」
「だって、私も生活しないといけないから。王様の側とか言わないでよ。」
「私がマリコの側にいたいんだ。」
「迷惑です。私の結婚相手は貴方じゃない。」
マリコの冷たい視線がささる、12マタ男ですよ無理、と言葉にならなくとも聞こえてきそうだ。
マリコが他の男と結婚、投げられた言葉で身動きもできない。
やだ、顔色悪いわよ、とどこまでも冷静なマリコ。
「唯一なんていいながら、他にも女のいる男、顔も見たくない。
ギルバートは後宮のお姫様に慰めてもらえばいいんじゃない。大事な大事な後宮のお姫様。
バカにしないでよね!」
大事なんかじゃない、後宮なんてどうなってもいい。
シッシッとマリコが追い払うように手を降る。
マリコを引き留める術もなく、出ていかれた王宮には嵐が吹き荒れた。
顔も見たくない、本気で言ってた、マリコの言葉が突き刺さる。
王の魔力が不安定になり、地響きで今にも地面が割れそうである。
魔力がスパークして空気中に火花が散っている。
周りは、答えを聞かなくとも王が番と上手く行ってないとわかった。
宰相より、後宮は3日のうちに解散、出ていく者には労働対価の金額が与えられると触れがだされた。
「陛下、後宮をまず無くすことです。そうしないとマリコは振り向いてもくれません。」
私は後宮にもいい顔をしようとしてたのか、マリコ以外何もいらないのに。
どうして宰相のように直ぐに解散としなかったのか。
そのせいで、何よりも大事なマリコに嫌われている。マリコの甘い香りが僅かに香る。
12人だろうが100人だろうが、後宮の女とマリコでは比べるまでもない。マリコしかいないんだ。
喉が渇いて、胸が苦しくて、マリコでないと鎮められない。
マリコだけでいいんだ。
先ほどマリコが他の男に笑顔を見せていた、殺してやりたい。
私にも笑いかけて欲しい。
マリコ、マリコ、マリコ、マリコと脳内エンドレスで続く。
政務も滞っているが、周りも番最優先は解っている。
番を手に入れれば、どんな雄竜も馬車馬の様に働くのだ。
手に入れるまでは使い物にならない、番で頭がいっぱいなのだから。
王様は本気だ、番の為には何でもする。それはどの雄竜でも同じだ。
不気味な雷雲が鳴り響く空を眺めて、人々が思う。
3000年でやっと現れた番が後宮の存在で怒っている、それはわかっているが、修まらないのが、後宮の女達。
自分達は500年の間、男女の関係だったのだ。
ここでは、贅沢もできた、王の来ない時には他の男を侍らせている者もいた。
全て王の権力あればこそなのだ。
クシャラ姫お止まりください、扉の外から騒々しい声が聞こえる。
「陛下。」
先触れもなく扉を開けたのは一番長く後宮にいる大臣の娘だ。
今までは我が儘も聞いてきた、父親を大臣にもした、美しい娘と思っていた。番が現れた今になってみると、色褪せ朽ちかけの雑草だ、どぶの匂いがしそうである、声を聞くのもうざい。
「陛下、私だけは残されますでしょ?あんなに愛し合いましたのに。」
「首をはねた、城下に捨てておけ。」
駆け寄ったクシャラ姫は、ギルバートに触れる事もなく、魔力で一瞬のうちに首を落とされていた。
ギルバートの応えは、こんな者のせいでマリコに嫌われたのだ、ただそれだけだ。
長年、むつみあった女に何の感慨もわかない、マリコが全てなのだ。
娘を処分された大臣が飛んできたが、反対に他の大臣により更迭された。やっと現れた番を害した娘の父親である。
3000年の時だ、誰もが待ち焦がれた娘が逃げようとしている。
番を見つけながら得られなかった雄竜は狂う、王の力なら世界の崩壊に繋がるかもしれない。
そして、王よりも強い竜はいない、誰も止められないのだ。
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