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私と黄金竜の国  作者: violet
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勉強会は過去の精算

関脇はダイエットだけでなく、勉強もしている。

長い年月、卵の中で寝ていたのだ、浦島太郎状態である。

世の中は変わり過ぎて知識がないのと同じである、それはマリコも同じなので二人で勉強会をしようとなった。



「母上、それは山岳地方の気候です、今は雨期になります。」

いつの間にか関脇が先生をしている。

あ、そうだった、とマリコが訂正している。

「関脇やギルバートは雲を作ることも雨を降らすこともできるんでしょ?」

「母上、違います。

俺も父上も空気中の水分を調整するのです、結果、雲が出来たり、雨が降ったりします。」

「うわあ!すごいね。」

誉められると関脇も嬉しい、ドンドン知識を吸収していく。


関脇が教本の途中で手を止めた、それは歴史の教本であったが、関脇はそのページを食い入るように見ている。

『太古に人間と呼ばれる種族は滅亡した。

天変地異か他の要因があったのか不明である。』

「母上。」

ずいぶん痩せたとはいえ、まだ細いには遠い関脇。

マリコに向ける顔は丸い。

「どうしたの?」

コレがどうしたの、とマリコが教材を見る。

「昔の人間は魔力は少ないけど繁殖力が凄かった。」

ああ、人間は竜に比べれば短い命だけど、年中繁殖期だものね。

「俺は人間の女の子を好きになったんだけど、振られてしまって。」

「いつもの事じゃん。」

マリコの言葉は関脇をえぐる。

「それで。」

言いにくいのだろう、関脇の言葉が続かず下を向く。

「感情的になった俺は魔力を爆発させてしまい、地表は炎で(おお)われ、俺自身は地中深く眠りに入った。」

「それで、人間は滅亡したのね!

人間は魔力が少ないから逃げれなかったのねー。」

ふーん、とマリコがお気の毒、と言う。


丸い身体をさらに丸くし、緊張で顔を赤くして罪の告白をする関脇は、まるでイチゴ大福のようだ、可愛すぎる。

「母上、俺はどうしたらいいんだろう。」

「反省してるから、いいんじゃない。」

え?と関脇は目を見張る。

なんて事をしたんだ、と言われると思っていた。


「私のいた世界では太古に恐竜がいて、隕石で滅んだとか、氷河期が来たとか言われていてね。」

マリコの話は恐竜に飛んでいる。隕石は自然災害だか、関脇は犯人だ。

「つまりね、滅んだ理由なんてわからないわよ!

そういう運命だったのよ!!」

「母上ー!」

関脇が目をタコ糸のようにして泣いている。

マリコが駆け寄り関脇を抱き締めると、ギルバートが飛んで来て二人を引き離した。

いつものように(のぞ)いていたらしい。


「種族を滅ぼしてマリコの同情を得られるなら私だってするぞ!」

ゴーン!

ギルバートがマリコに蹴られていた。

「王様がそんな事しちゃダメでしょ!」

しかもゲシゲシ踏まれている。

「しないよ、マリコに軽蔑されるからね。」

軽蔑。

ギルバートの言葉が関脇を叩きのめす。

(とど)めはマリコだ。

「命は大事なのよ、取り返しがつかないんだから。」

取り返しがつかない。

関脇、撃沈。



「はいはい、二人ともそれは自分たちの部屋でやって。」

ギルバートとマリコを止めにジョシュアがやって来て、二人を部屋から追い出した。

「父上は母上を好きすぎる。雄竜の悲しい(さが)だな。」


ヒクヒク泣いている関脇にジョシュアが声をかける。

「どうした?

母上にかまわれ過ぎたか?」

ジョシュアは最初からマリコの認識が間違っている。

「兄上、違うのです。

僕が人間を滅ぼしてしまったのです。」

事情を聞いたジョシュアは、関脇の頭をグリグリとなでる。

「ちょっと考えてごらん。」

「え?」

「人間の母上を見てごらん。」

「母上ですか?」

そうだよ、とジョシュアが頷く。

「母上は難産で父上はもう子供を作らないと言っている。

そうでなかったら今頃は、たくさんの弟、妹に囲まれている。」

「確かに、人間は寿命は短いですが、繁殖力は他の種族を凌駕(りょうが)しています。」

「そうだ、竜が1000年で一人に対し、人間は40歳までに3~4人産む。

そのペースで増えると食糧はどうなるだろう。

人間は狩猟民族だ、家畜だけでは足りなくなってくる。」

「それは。」

関脇が言いよどむ。

「魔力は弱いが圧倒的数の人間と、魔力は強い他民族で争いが起こるのは避けれなかっただろう。

人間の魔力は弱いが数が集まれば逆転することもありうる。

もし、人間が滅んでなければ、ということだ。」

ジョシュアはさらに続ける。

「もし、過去に戻れてやり直すことが出来たとしても、それが正しいとは限らない。」


「兄上、それでも僕が滅ぼしたのです。」

プクプクの小さな手を膝の上で握りしめる関脇。

「そうだね、関脇の魔力は凄い。

どうして関脇だけがそんな力で生まれたのだろうか?

他の種族は飛んだり、魔力で関脇の炎に対抗したのだろう。

関脇の力は人間を滅ぼす大きな要因ではあった、それだけだ。

いろんな要因があって人間は滅んだと思うよ。

この世界で人間は滅亡したけど、母上の世界では人間が君臨している。」

関脇がジョシュアにしがみついて聞いている。

ジョシュアは考える、どうして関脇は目が覚めたのか。

「関脇は、きっと愛される為に目が覚めたんだよ。

母上なんて関脇が可愛くて仕方ないらしい。」

関脇は地表を炎で覆った時に、どれ程の絶望を感じていたのだろう。

父上が母上に振られた時の話は聞いている。


「僕は、もう二度と感情に支配されないようにする。」

強い目で意志表示するが、丸い顔の小さな目では迫力はないどころか、キラキラした目が可愛さアップである。

多分イケメンであろう顔は、今は可愛いばかりだ。

幼児の姿も可愛いが、太めの黒銀竜で胸を張る姿も可愛いだろう。

卵の時からマリコに愛された竜に絶望は残っていない。



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