旅行は計画段階から楽しい
「そのだな、二人で旅行でもいかないか?」
相変わらず、ギルバートは執務を抜け出してマリコにひっついている。
「二人で?」
「卵も無事に孵ったし、侍女達に子供達を任せても大丈夫だろう。」
マリコの頭には湖畔地方のスリルあふれた旅行が思い出され、どうしても乗り気になれない。
アレクセイも勧めてくれたぞ、と言って企画書のような旅行計画書を出してきた。
誰が作ったか一目瞭然である、小学生の修学旅行でも自由時間あるぞ、というぐらいスケジュールが分単位で書かれている。
10時30分:二人で手を繋いで森の小道を散策。
どんな顔してこれ書いたんだ、あの息子は!?
11時00分:森の広場に到着、水分を取って休憩する(母上の行動に要注意)。
このカッコはなんだ、どういう意味だアレクセイ!
11時30分:小川沿いに歩き滝をめざす、母上の手を離さないように(ウサギが目撃されているので、母上は必ず追いかける)。
手を繋ぐの意味はコレか!!
12時00分:滝に到着、お昼休憩とする(母上は疲れると食べなくなるので要観察)。
アレクセイーーーー!!!!!
「アレクセイはマリコを心配しているんだよ。」
笑いながら企画書を見せるギルバート。
「笑いごとじゃないわよ、私が完璧な旅行プランを立てるから見てなさい!」
移動の足は竜よね、とギルバートは乗用車扱いである。
しかもギルバートは竜王、予算は無制限だ!
この国の観光地ってどこだ、海?山?
「この時期にお祭りの所はないの?」
「あるはずだよ、内務省の役人が集計をだしている。」
「わかった!内務省に行ってくる!!」
「待て!!それはダメだ!!マリコ!!」
役人は男なんだ!!
「男がいるからって浮気するはずないでしょ!」
「声に出してたか!?」
マリコに白い目で見られてギルバートがひきつる。
思っている事がバレないとでも?毎回同じとこが問題になっている。
「マリコにその気がなくても男は要注意だ。」
呆れも通り越してしまう、マリコは自意識過剰ではないがギルバートは違うらしい。
自分の番はこの世で一番魅力的であるから、他の男がほっておかないと真剣に思っている。
その男達も自分だけの番がいるんだから問題ないじゃん、というのはギルバートに通じない。
「海の近くでお祭りのところ、そこに行きたい。調べてくれる?」
マリコは作戦を変更した。竜王はマリコの下僕だ。
「すぐに!ちょっとだけ待ってておくれ。」
ギルバートは魔法で姿を消すとたくさんの資料を持って戻ってきた。
横でワクワクしながらギルバートがマリコを待っている。
「ありがとう、これで計画立てるね。」
ギルバートがマリコの役にたとうと横にひっついている、まるで犬である。
「ギルバート執務室に戻らないといけないんじゃないの?
後で仕事姿を見に行くかも。」
マリコがギルバートを追い出しにかかるが、もうちょっと、もうちょっとと側から離れない。
「ギルバートの仕事姿好きだなあ。」
ギルバートを誉めておだてて仕事に戻った頃には、マリコのHPは0になっていた。
慣れない事をすると疲れる、プラン作りは後にしてまずはお昼寝しようと寝室に向かう。
旅行に誘われて返事どころか、プラン作りになってしまっている、アレクセイにやられた。
その日は庭に面したテラスで資料を広げてプランを練っていた。
「おかあちゃま、何しゅてるの?」
侍女と一緒にシンシアがやって来た、勉強の時間が終わったらしい。
「ギルバートと旅行に行くの、どこがいいか調べているの。」
甘えっ子の娘は膝に登ってきて、マリコにもたれかかる。
すぐに寝息が聞こえシンシアの頭がカクとマリコの腕におちる。
マリコが侍女からブランケットを受け取るとシンシアの上からかける。
その姿をこっそり覗いているのがいる、もちろんギルバートだ。
ああ可愛い、番と娘、至福の時間である。
「父上、あんなところで寝ていたら風邪を引きます。
一人づつ持って行きましょう。」
後ろから声をかけたのはアレクセイである。
まるで宝物のようにシンシアを抱き上げ、父上はこっちを、と母親を指す。
マリコもシンシアの温かさで寝入ってしまったらしい。
「アレクセイ、お前がいてジョシュアがいてシンシアがいる。
それを与えてくれたマリコがいて私は幸せだよ。」
「なんですか、急に。
僕も家族が大好きですよ。とても大切です。」
「言いたくなったんだ。」
ギルバートは今、竜王ではなく父としてアレクセイに接している。
「貴方の息子に生まれたことを誇りに思いますよ。」
マリコと旅行はきっと楽しいだろう、マリコといると世界が色づいている、命の光で輝いているんだ。