朝からうるさいです
なんでこの人はここにいるの?
シモンさんのお家でのんびり朝食していたら、ギルバートがやって来た。
「2度と会いたくないって聞こえてませんでした?
昨日はどちらの姫様にお泊りになったか知りませんが、追い出されたんですか?
来られても迷惑なんです。」
「無理だ、どこにも行ってない。マリコの甘い匂いが香って来るんだ。」
悪寒がはしる、気持ち悪い。匂いってなんだ。
美味しいご飯だったのに美味しく感じられない、理不尽だ。
席を立ち部屋から出て行こうとすると扉に先回りされた。
「じゃ仕事に行ってください、私には関係ありません。」
「お願いだ、マリコこっちを向いてくれ。」
この言葉だけ聞いていると愛されてるかと錯覚しちゃうよね。
これを12人全部に言っているとは、ダメ男ってこういうのを言うんだ、きっと。
「シモンさんに、私だけを、大事にしてくれる夫候補をお願いしてますので、じゃまなんです。」
私だけを強調して言ってみた、帰れないかもしれないから半分本気でお願いしてある。
「私にはマリコだけなんだ、本当だ。」
「12人も女を同時進行する男の何を信じろと?」
13分の1になるつもりはない。
「あれは後宮だから。」
やっぱり後宮は残すんですね。
「そういう人を当たってください。」
後宮を残してる点で、交渉の余地ないし、話もしたくない。
ハーレムは男のロマンなんて言った奴でてこーい!
女性の人権を踏みにじってる。
一人を大事にしない人が自分だけを大事にしてもらえるはずない。
王様なんてすごいお金持ちで権力者なんだろうけど、お金は欲しいが愛も欲しいのだ、普通の考えだと思うよ。
「次代がいないとこの国が終わってしまう!」
「ふーん、だからココに来たの?子供が欲しいから。絶対にイヤ。」
私もバカだな、昨日反省して私だけにしたのかと、ちょっと期待しちゃってた。
もう絶対に騙されない。
イケメンで王様、ほっといても女の人が寄ってくるんでしょ、ザマーミロ!
心の中でアッカンベーをする。
「マリコ、どうすればいいんだ。」
王様は女性に嫌われるのが慣れていないらしい。
ギルバートの情けない姿を見て、ちょっと気持ちがいい。
「ギルバート、ごめんね、最初の衝撃が大きすぎ、あれを挽回することはできないわ。
今は近寄られるのもイヤ。私の国では、ギルバートみたいな複数の女性を同時進行する男を最低男って言うの!
イケメンだし、助けてくれてドキドキしていた気持ちがもう、ときめかないの。
他に女性のいる男は最初から選択肢の中に入らないのよ!」
さぁ、仕事してきなさいよ最低男、と追い出す。
やだわ、変態を触っちゃったわ、手を洗わなきゃ。いや蹴りだしたから足の消毒だ。
侍女さん達が王様が追い出された扉を見てる。
「マリコ。」
王様がトボトボと出て行った後、宰相様が顔をだした。
「シモンさん、この国の王様にごめんなさい、無理なの。」
「ギルバートはこの国で1番の長生きだ、王族だからね。
そしてただ一人の王族なんだよ、家族が欲しいんだ。
ギルバートは魔力がとても強いんだよ、その分長寿だ、周りが死んでいってもね。
もうわかっていると思うが、竜は番としか子供が作れない。番は唯一なんだ。
1000年ぐらいは番を探していたと聞く、どんどん希望をなくして後宮の彼女達に救いを求めたんだよ。それは、わかってやって欲しい。」
そんなのわからないわよ。
私のせいじゃないし、女に救いを求める?
そういうのって、結局そういうコトしたいだけなんでしょ。
「じゃ、ずっと彼女達に救ってもらえばいいのよ。私には無理、寛容できない、慣習の違いね。」
「2000年の孤独だよ。それに、番を知ってしまうともう無理なんだよ、我々は。」
「シモンさん、私もね、最初はなんてカッコイイんだろうって、助けてくれてすごくうれしかった。
けど王宮に連れていかれて、後宮で他の女性とうまくやってくれって言われたらもう無理だった。
もし、番ってのが、唯一だっていうのなら、何故他の女の人と仲良くなんて言えるの?
何故、後宮を残そうとするの?
他の人のとこにも行きたいから、仲良くとか言うのでしょ。
私の世界では、それは唯一とは言わないわ。
私のいた国では、結婚は一夫一妻制だし、一度でも浮気したら離婚できるのよ。
相手を大事にする気持ちって行動しないと見えないのよ。
そういう文化で育った私には後宮なんて言われた時点でときめきも消滅、信頼マイナスの男に落ちたわ。」
宰相から報告を聞いたギルバートは唸ってしまった。
他の姫と仲良くしてほしい、と言った、それが拒否の原因とは思わなかった。
だからと言って、すぐに後宮を解体なんてできない、もう行くことはないが。
マリコの香りを知ってしまったら、他の女に性的興奮を覚えない、マリコが欲しくて仕方ない。
番を知る前と知った後は世界が違うぐらいの差がある、マリコでないとダメなんだ。
「マリコの側にいたい。」
はぁ、とつぶやくギルバートに他の選択肢はない。
ギルバートの魔力の強さを知っているシモンはもっと悲壮な事を思っていた。
番を見つけた雄竜は、手に入れる為にはなんでもする。
手に入れなければ魔力の暴走だ。過去、番を手に入れられなかった雄竜は僅かだ。
当時の王が暴走をする前に雄竜を処分した。
どの種族よりも竜は強い、そしてギルバートより強い竜はいない。
誰もギルバートの暴走を止める事はできない、ギルバートの魔力は未だかつてない程強いのだ。
「陛下、それとお知らせしておくことが。
マリコの種族は、変化もしないし魔法も使えないそうです。」
昨夜、食事の時にマリコから聞いた話を伝える。
「どうやって身を守るんだ!硬い鱗も牙もないというのに!」
「平和な国だから、身を守らなくてもいいし、科学というものがあったそうです。そして長くても100年しか生きれないと。」
私は21歳だから、後10年余りが出産適齢期、え?繁殖期そんなのないわ、いつも繁殖期よ。
昨日、マリコはそう言ってた。
なんて事だ、悠長に後宮解散なんて言ってたら、マリコの産卵期は終わってしまう。
それどころか死んでしまう、後宮の解散は最重要課題だ、至急会議にかける。
それでも遅いとギルバートは気が付かない。
女性の竜は年に一カ月程の繁殖期のサイクルが500年ぐらい続く、だから後宮では繁殖期がずれて番のいない12人が控えていた。ギルバートが後宮に向かうのは年に数回もないが、いつでも対応できるように揃えられた。
マリコなら一人で充分になる。
マリコは10年しかない、竜のように500年あるような感覚でいたらダメなんだ。
仕事の手が止まり、マリコの事を考えてしまう。
甘い香りがするのに触れることも許されない、後宮を早く解散させねばと気は焦るが女達の処分が難しい。
「うーん。」
マリコも唸っていた、いつまでもシモンに頼っていられないから仕事をしようとしたが、探しかたからわからない。
そしてドレール宰相夫人に竜やこの世界のことを教えてもらっている。
この国は竜や獣などたくさんの種類の人型を取る半人の国だそうだ。
竜などは巨大だし、狼などは人に近い大きさらしい。
お互いが住みやすいように人型が共通になったそうだ。
過去には人間もいたが魔力もあったので、マリコとは違う種の人間であったようだ。
それも混血が進んだり、自然淘汰されて純血はいなくなったとのこと。
過去に異世界から来た種族もいるので、異世界人に拒否反応はないらしい。それはマリコの世界とは別の世界からであるようだった。
竜が支配階級の頂上で、気の遠くなるような時を支配してきている。
雄竜は番を見つける能力があって、生まれてからずっと探し続けるそうだ。
雌竜は年に1ヶ月程が繁殖期で、その期間のみ性行動ができるらしい。
竜は1000年ぐらい生きる、今の王様は特に力が強くって3000年生きている、番を探すために長い旅をする雄竜もあるとのこと。
いろんな色の竜がいるが、黄金の竜は王様だけしかいない。
3000年前って紀元前!
うわぁ、もう想像もつかないくらいのおじいちゃんなんだ。
色ボケじーさん、ぞっとする!
私が番でかわいそうとは思うけど、好きでもない人の子供を産むなんてイヤ。
ましてや、あっちは私を子供を産ますだけと思っているし。
自分が惨めすぎる。
一方的に番と言われても、こっちは番じゃないんだから、無理なのよ。
子供がいなくても後宮のお姫様と仲良くやってんなら、それでいいじゃないの。
後宮で仲良くしているのを見せつけられたくないわよ。
私には関係ない。子供がいなくても幸せな夫婦はいっぱいいるわ。
元の世界に帰れないとしても、幸せに生きたいと思うのは当たり前のことだわ!