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私と黄金竜の国  作者: violet
18/53

マリコ母親業してます

気持ち悪い、それがマリコの第一声だった。


マリコはいつものように、奥様達とシュンレイ談話を楽しんでいた。

そのマリコが黙ったままになったのを気付いたのは宰相夫人だ。

「マリコ様?」

「気持ち悪い。」

「早く横になって、医者を、竜王様を。」

周りは大騒ぎである、すでに魔法で宰相夫人から宰相に連絡がいっている。

当然のように一番大騒ぎするのはギルバートである。


ギルバートが駆けつけた時には、マリコはシュンレイに運ばれて寝室のベッドで横たわっていた。

「大丈夫だから、ギルバート。」

「どこか痛みがあるか?気持ち悪いのはどこだ?」

「大丈夫、赤ちゃんが、たぶんできたの。」

「え。」

みるみるギルバートの顔が喜びで崩れていく。

医師の診察が始まり、アレクセイも駆けつけた。

「父上、妹ができたっていうのは本当ですか?」

「マリコはそう言っているが、医師の診察中だ。弟かもしれないぞ。」

「弟は第2希望です。」

相変わらずぶれないアレクセイである。

「母上の国では、魔法がない代わりに医学がとても進んでいます。それでも出産で無くなる女性はいる。」

「ああ、マリコも子供も無事で生まれて欲しい。」

部屋の扉が開き医者が出てきた。

「番様は妊娠しておられます。

今回は早めから魔法を与えるのがいいかと存じます。」

「ありがとう、そうするよ。」

「父上、僕は一緒に実験がしたいです。」

人手が足りなかったんですよ、と言う。

アレクセイ、何か間違っている、赤ん坊は直ぐには実験の手伝いなどできない。


ギルバートとアレクセイが寝室に入っていくとマリコは寝ていた。

「医者の魔法で落ち着いたのだな、最近あまり食がすすまないとは思っていたんだ。」

マリコは時々プチダイエットをしているのをギルバートも知っていた、それかと思っていた。

「アレクセイ、お前の時もだが、マリコはとても愛情深い。

ただ、魔法がないので身体への負担が大きいのだ。」

「知ってますよ、しかもよくしゃべるんです、赤ちゃん赤ちゃんって。」

アレクセイの時は卵に話しかけながら抱卵していた、と思い出す。

「僕でなければ気づきませんでしたよ。」

卵の中から聞いていた、とアレクセイが言う事に普通ではないが、ギルバートも気にしない。



マリコの妊婦生活が始まった、二人目なので本人も周りもアレクセイの時ほどではないが、壊れ物扱いである。

「アレクセイのように話しかけてこないの。」

マリコが心配しているが、それがこの世界でも普通だ、アレクセイが異常だったのだ。


アレクセイの時と同じように5か月になると出産が始まった。

アレクセイのように自分から生まれようとはしない卵を魔法で出産に導くのだ。

マリコがどんどん弱ってきたのが、お腹の卵が魔力の代わりにマリコの生命力を取り込んでいると医師が診断したからである。

当然のようにギルバートが居座っている。

邪魔であるが、扉の外から、マリコ!マリコ!と叫ばれるのも邪魔になる。

「竜王様、番様を元気づけてあげてください。」

アレクセイの時よりずっと時間がかかっている、マリコの体力は限界で、痛みに耐えた顔が浮腫んできている。

「マリコ、少し休んでいいんだよ、マリコ。」

「ギル。」

マリコがうっすらと微笑みを浮かべる、額には汗が滲んでいる。

ギルバートの手を握る指先に力がはいり、マリコのうめき声が響く。


長い時間の後、マリコは卵を出産した。

マリコの意識がなく、出血が一時止まらない状態になり、ギルバートが錯乱した。

空が一瞬で真っ赤になったが、アレクセイがギルバートに飛びかかり、

「母上は大丈夫です!

医師が出血を止め、魔法治療をしています。

父上の逆鱗を飲んでいるから死ぬことはありません!!」

ギルバートは正気に戻ったが、

「マリコ!マリコ!!」

マリコにすがり付いて離さない。

アレクセイはその間、卵に魔法を分け与えていた。

ギルバートはマリコにつきっきりで卵のことなど眼中にない。


医師にとっても異世界人であるマリコのことはわからない事が多いのだ、どれ程の生命力を卵に吸い取られたのかがわからない。

マリコのピクリとも動かない瞼はしまったままである、ギルバートの表情は悲愴である。

止まったように長く感じた時間はマリコの指が動いたことで動き始めた。

「赤ちゃん。」

マリコの目が開くと同時に言葉が発せられた。

アレクセイが卵を抱いて駆け寄ってきた。

「母上、卵です。」

「アレクセイ、ギルバート、赤ちゃん生きてる?」

「ちゃんと魔法を受け取ってますから大丈夫です。」

この時のマリコの微笑みは慈愛の女神のようだった。




1年後卵からは男の子が孵化し、ジョシュアと名付けられ元気に育った。


「ジョシュア!!!!」

マリコの叫び声が今日も聞こえる。

アレクセイ10歳、ジョシュア4歳。

ジョシュアが泥だらけで庭園を逃げ回っている。

「何度泥だらけになるの、服を着替えなさい!!!」

ジョシュアは元気すぎる普通の幼児に育っている。

毎日、マリコはヘロヘロになって追いかけるが、相手は幼児とはいえ竜だ、体力はある、足は速い、空も飛ぶ。

人間の4歳の男の子がすることを竜がするのだ。

「ジョシュア!!」

マリコが低い声で呼ぶ、マリコの怒りが言葉に表れている。

「母上、ごめんなさい。」

「一人で着れるわね。」

マリコがジョシュアの汚れた手足をタオルで拭き始める。

ジョシュアがマリコの指をそっと握ってくる。

仕方ないなぁ、かわいいヤツと母ならではの幸せだ。

「アレクセイがもうすぐ帰ってくるから一緒におやつにしましょう。」

「兄上が!?」

満面の笑顔でジョシュアが訪ねる。

卵のジョシュアに魔法を与えたのはアレクセイとギルバートだ。

「いい子にしていたかい。」

視察から戻ってきたアレクセイとギルバートがジョシュアに声をかける。

「兄上----!!」

ジョシュアがアレクセイに飛びつく。

アレクセイもジョシュアに付き合うことで子供らしい遊びをすることもあった。


アレクセイとジョシュアを横目に見ながらマリコがテラスの椅子に腰かけた。

ジョシュアがアレクセイに甘えまくっている。

「疲れたかい、マリコ少し休んだ方がいい。ジョシュアは元気だからね。」

ギルバートがマリコにジュースを差し出す。

「ちょっとね、もう無理できなくなっちゃった。」

「え?」

「赤ちゃんができたの。」

ギルバートの頭にジョシュアの出産がフラッシュバックする。

「絶対に産むわ、ジョシュアで体力ついたから大丈夫よ、心配しないで。」

2000年以上一人だったギルバートに家族を増やしてあげたい。

「マリコ以上に大事なものはない。」

知っている、あの時ギルバートはマリコに命をわけてくれていた。

「アレクセイの時もジョシュアの時もいろいろだから、いつも難産なんて決まってない、ギルバートの赤ちゃん嬉しいの。」

心配性なギルバート、決して悲しませたりしないからね、マリコがギルバートに囁く。





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