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私と黄金竜の国  作者: violet
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生態

マリコは執政に全く関わっていない。

外国から要人が来ても会う事もない。


この世界で最強の黄金竜の番、噂だけが駆け巡る。



「国境に架かる橋の補修費用は双方の負担率はイーブンと言うことで。」

「それがよかろう。」

補修は魔法士達がするが、材料は必要になる。

隣国アーベンの王子が会議の為に来ている。

アーベンは生態系がまるで違う。

遠い昔、異世界からやって来た民族が国を作ったとも言われている。

「竜王様、是非に番様にお目通りを賜りたい。」

「何故に?」

「番様は異世界から来たとお聞きしました。番様なら、我々の苦しみを救えるのではないかと思うのです。」

「あれにそんな力はないぞ。」

「それでもです!」

橋の改修工事ぐらいで王子をよこし、竜王に謁見を申し込んでくるのは何かあると思っていたが、マリコとは。

「我々の運命から逃れる術のヒントのかけらでもありがたいのです。」

竜王も彼等種族の形態をよく知っている、自分が番に出会えた今、無くすことなど想像するのもいやだ。



「マリコ様、ギルバート様がお呼びです。」

宰相が呼びにきたので、マリコはびっくりした。

「ギルバートは仕事中でしょ?大丈夫なの?」

「だから、私が来ました、お客様にお会いしていただきたい。」

宰相はマリコのドレス、髪型とチェックしていく。

「ああ、もっと早くから立ち居振舞いとか、言葉つかいだとかを指導しておくんだった。」

まさかのここに来て宰相からのダメ出しである。

「それがマリコ様の良いところですから、仕方ありませんね。」

何やら一人で納得したようである。



宰相に案内されて謁見室に行くと、とんでもないイケメンが居た。

ギルバートもイケメンだか、もっと繊細な貴公子様のイケメンである、眩しすぎる。

「隣国アーベンの第一王子のサイファ殿下でいらっしゃいます。」

宰相がマリコに紹介をして、ギルバートの隣の席を勧める。

「私の番のマリコだ、異世界から来た。」

ギルバートがマリコを紹介すると、王子は席から立ち上がり、マリコに礼をした。


ダメよマリコ、見かけに騙されちゃ、カバ姫だって絶世の美女に魔法で化けたじゃない、タヌキ王子かも知れない。

マリコが頭の中でイケメン王子にとても失礼な嫌疑をかけている。


「番様は我々種族をご存知でしょうか?」

「ごめんなさい、異世界から来たので何も知らないの。」

7年も前に来て知らないとは、勉強してないということである。


「私達の祖先は異世界からきた種族です。その為、生態がこちらとは随分違い、その最たるものが種族保存形態です。」

フンフンと聞くマリコにサイファ王子が説明をする。

「竜属の番と同じく、私達も一人の伴侶と添い遂げます。

親は死力を尽くして子供を産み、死んでいきます。」

王子様は鮭だったのか。産卵の為に川を遡上して、産卵後は死んでいくテレビの映像がマリコの頭によぎる。

マリコの中で魔法というイコールで鮭とイケメン王子が繋がっている。

なんて可哀そうなんだろう、涙がこぼれそうである。


「母親は自分の全てを子供に分け与えて、出産で死んだ後は父親が子供を育てます。」

マリコの頭の中で鮭にバッテンがかかれた。


母親が生まれた子供に食べられる昆虫がいたはずだ。

子供に全てを与えて死ぬ、確かカマキリとか蜘蛛とかにそんなのいなかったか。

イケメン王子は蜘蛛なのか、昆虫だと思うと悪寒がはしる。

思い出したくないのに、昆虫イコールGとなる、魔法はなんでも化ける。

G、G、G、貴公子王子はG。

見えない、こんなにイケメンなのにGかもしれないなんて、こぼれかけた涙も引っ込んだ。


ギルバートは赤くなったり、青くなるマリコの顔を見ている。

サイファ王子が美形で、マリコが惹かれはしないかと心配しているのだ。

アーベンの種族がただ一人しか添い遂げないというのが安心要素ではあるが、雄竜の心は狭い。


「妊娠すると女性は食べ物を受け付けなくなります。どんどん弱っていくのに体内の子供に自分の栄養を与えるのです。そして出産で残りの力を出し切ります。

子供の誕生日は母の命日となるのです。

私達は、なんとか女性に栄養を取らせようとするのですが、何も受け付けないのです。

魔法でエネルギーを送り続けるだけしかできません。

男達は残りの人生は子供を育て、妻を思って生きます。」

マリコの涙腺が崩壊した。

「点滴でも栄養は取れないの?」

サイファ王子がマリコに掴みかからんばかりに聞く。

「点滴とはなんですか!」

「え?えーと。

アレクセイを呼んで?」

点滴はわかっていても、何も知らない人にその説明は難しい。

ましてや、この世界の医学も魔法もマリコにはわからない。

マリコの記憶を持っているアレクセイに丸投げしたのだ。


「お話しはわかりました。僕から説明させていただきます。」

呼ばれて来たアレクセイは同じ話を聞いた。

王家の記憶にはアーベンの種族の情報がある、父と母両方の記憶を照合して可能性を考える。

「母の国とは医学が違うので単純にはできませんが、点滴は有効であると推測します。

点滴とは身体の中に直接栄養を送ることです。」

そうですね、とアレクセイが少し考えてから、

「点滴は静脈に流れる栄養形態が必要で現実的ではないでしょう。」

サイファ王子の顔が一瞬でくもる、希望があると思ってただけに落胆は大きい。


「母の国では、口から栄養を取れない人を救う方法があります、それを試してはいかがでしょう?」

アレクセイがサイファ王子に向かう。

「食べ物を受け付けないとは、口に入れると吐くのですか?」

「いいえ、飲み込むこと自体ができません。」

サイファ王子の答えに、おばあちゃんがそうだった、とマリコは思い出した。

アレクセイはそのマリコの記憶を言っているのだ。

「僕達には魔法があります、それを使うのです。」

アレクセイはテーブルにあるお菓子を取ると魔法ですりつぶしお皿の上においた。

「ここにはお菓子しかありませんが、実際は野菜や魚がいいでしょう。火を通した方が消化しやすい。」

アレクセイはお医者ごっこをしているみたいだ、病院の医者のような事を言う。

そして、サイファ王子のお腹を押した。

「ここです、ここに胃と腸がある。」

グッと押すと魔法でサイファ王子の胃にすりつぶした菓子を転送した。

王子の顔色が一瞬で真っ赤になった。

「凄い!体の中に感じます!

ありがとうございます!」

「女性に試してみないとわかりません。胃と腸の場所を間違わないように。

消化作用が動けばきっと助けられます。動くかはやってみないとわかりません。」

イケメン王子はアレクセイの手を取り興奮のままブンブン振ると礼の言葉を告げ国に飛んで帰った。


背中に白い羽が生え、天使のような姿だった。

マリコの感想は昆虫でなかった、である。




数か月後、女性を助けることができたと、アーベンからたくさんの御礼が届いた。

「これから、私たちは伴侶と最後まで添い遂げる事ができるのです。

出産で妻が死にゆく姿を見なくていいのです。

子供達に母の姿を見せてやれるのです。

本当にありがとうございます。」

サイファ王子の手紙にはそう書いてあった。

アレクセイに丸投げしたくせに、マリコは役に立ったと達成感を感じていた。




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