ガーデニング
麦わら帽子をかぶり花壇の中で作業するマリコ。
「いいこね、今日は熱いからお水をいっぱいあげるね。」
ちまちま雑草を抜き、根元に水をやる。
「ドミトリーチェ、待っていてね。」
「カトリーナ美味しい?」
名前までつけている、暇なんだろう。
「あら、ここに新芽が。何か植えたっけ?」
覚えはないが、何かの種が落ちたのだろう。
「名前はイワン2号。いい名前でしょ!」
1号はいないが、気分が2号だからかまわない。
「イワン2号、早く大きくなってね。」
新芽を、そっと撫でて水をやる。
本当に大きくなった、翌日には大人の背丈ほどになっていたのだ。
「へぇ、さすが異世界、いろんなのがあるのね。」
偉いね、偉いねと水をやる。
明らかに水のやりすぎで、鉢植えだったら根腐れをしている。
次の日には、さらに高くなり蕾をもった、マリコは楽しみで仕方ない。
ギルバートはこっそりマリコの後をつけていた。
マリコの機嫌の良さに、何でも気になるギルバートである。
「イワン2号、お花咲いたのねー。」
不思議な香りである、ふらふらとマリコが近づくとギルバートが飛だしてきて、後ろから手を引っ張った。
「近づくな!食虫植物だ!」
「ギルバート!」
「うわぁ、そうだったの。こんなに大きいんだと動物も食べれそうね。」
「こんなに大きいのは初めて見た、2階に届く程高いが、この種は掌サイズのはずだ。」
花壇の中で一つだけ飛び抜けて高い。
「イワン2号そうなの?大きくなって偉いね。」
マリコがイワン2号を撫でている。
撫でているーーー!!
「マリコ!!」
ギルバートが叫びながらマリコを食虫植物から引き離す。
「手を食べられる!」
「イワン2号は賢いから食べないよ、ねー。」
ねー、じゃないだろうとギルバートが近づくと、イワン2号の花が揺れている。
「大丈夫よ、ギルバートは心配性なの、悪い事しないから安心して。」
まるで言葉を理解するかのようにイワン2号の花は揺れるのを止め、怪しい花を開いている。
「これはすごいですね。」
近づいてきたのはアレクセイだ。
侍従や側近をうじゃうじゃ引き連れ歩く様は貫禄さえある。
片や、マリコの後をこそこそ着けてきたギルバート。
どっちが王様かわからない。
「母上、いつからこれが?
こんなに大きいといろんな所から目についたはずなのに、今まで気がつかなかったです。」
「3日前に芽がでたの。」
「あり得ない!」
口を揃えてギルバートとアレクセイが言う。
アレクセイが魔法で大きな塊の肉を出すとイワン2号の花に持っていった。
バックン!!!
ものスゴイ速さで花が閉じ肉をゴックンした様は怖ろしいの一言だ。
花弁が獲物を閉じ込めて飲み込むタイプの食虫植物の様である。
アレクセイも驚いている。
「動きも通常の食虫植物のそれでないですね。」
「ギルバート出して!私もあげたい。」
「マリコ見ただろう、肉をあげるのも危ない。」
「チガウ!!ケーキ1ホール!」
ギルバートもアレクセイも周りの人々も聞き間違い?と確認している。
「早く、ケーキ!」
マリコに言われるままにギルバートはケーキを魔法で出す。
厨房から魔法でかすめ取ったが正しい。
食虫植物が花びらの周りに生クリームを付けてケーキを丸飲みする様は異様であるが、マリコにとって異世界だからで済んでしまう。
「マリコ、餌をあげるのはいいけど、もう少し離れた方が安全だから。」
ギルバートはマリコの手ごと食べられるのではないかと、ヒヤヒヤしている。
「イワン2号はいい子だから大丈夫よ。」
マリコは食虫植物の餌付けが楽しくって仕方ない、自分で育てたのだから。
「母上、少しは危険を避けるようにしてください。」
ケガしたらどうするんですか、と諭す姿は相変わらず親子が逆転している。
翌日もマリコは厨房で貰ったケーキを持ってイワン2号の元に行った。
もちろん、ギルバートには内緒である。
昨夜心配したギルバートにコンコンと説得されたのだ。
一人で行かない。
餌やりは長いトングを使う。
1日に一回とする。
全部聞き流していた。
「イワン2号はいい子だものね、はい。」
ケーキはすでに食べ終わり、コッテリドレッシングの野菜サラダを食べさせている。
「これって共食い?
野菜食べてそれって変なの。」
一人でしゃべって一人で笑っている。
返事が欲しい。
「はい、2号、これがリンゴ。」
食虫植物にヘタクソな絵を見せて教育を始めた。
「リ・ン・ゴ、言ってみて。」
もちろん音声を出したりしない。
マリコはハイとイイエを紙に書いた。
「こっちがハイ、こっちがイイエね。動かすのよ。」
茎を中心に右と左の葉にテープで貼り始めるマリコ。
次の日は茎が丸々と太っていた、草の茎の柔らかさなのに木の幹よりもに太い。
肥満な草の茎に産毛のようなトライコームが不気味である。
「分けっこね。」
マリコはケーキを1/6程切り分けて取ると、残りを食虫植物に食べさす。もう一種類のケーキも同じようにする。
「違うケーキが食べれるのがいいね、2号が残りを食べてくれるもの。」
そして、ハイと書いた紙を貼ってある葉を揺らす、ほらこうするのよ、と教えながら。
次の日に悲劇は起こった。
食中毒か、食べ過ぎか、食虫植物が太い茎ごと倒れると帰らぬ植物となってしまったのだ。
「イワン2号!!」
マリコが呼んでも応えることはなかった。
「父上、あの食虫植物、倒れてくれて良かったです。」
「全くだ。」
執務室でギルバートとアレクセイが食虫植物の話をしていた。
「あいつ、木と間違って停まった鳥を食べてましたよ。」
「狂暴であったな、周りに人が近づくと威嚇するように花が揺れていた。
マリコには、なついていたが、いつ襲われるかと心配だった。」
ギルバートはマリコに防御の魔法を毎朝念入りにかけていた。
どんなに護衛や侍女を付けても、マリコはすぐに一人でフラフラ出掛けてしまう。
「母上は異世界人なので、我々には察することのない何かがあるのかも知れませんね。
その影響を受けるのではないでしょうか。
本人に自覚がないから、周りで注意しないと危な過ぎる。」
「イワン2号、あり得ない突然変異であったな。」
「ギルバート、お帰りなさい。」
仕事から戻るとマリコが熱烈歓迎してくれる、ギルバートの顔は緩みばなしである。
「見て見て!
小さい蛇をみつけたの!」
マリコはお菓子の箱に入れてあった蛇を取り出した。
「名前は、徳川家康。ちょっと強そうな名前でしょ。」
マリコがウフフと笑っている。
ギルバートはひきつった顔でマリコから蛇を取り上げると、生息地域に捨てに行った。
ギルバートの不安が和らぐ時はない。




