第1章10 クエスト×クエスト
第1章10
【16】 クエスト×クエスト
レオナからクエストについて聞かされた三人は、今後について話しあっていた。
「ど、どうしましょう?」
このクエストの依頼には、5万Gかかると言われてしまった。問題はそこである。
「どうするも何も、そんな大金ないではないか」
駆け出しも駆け出しである三人に、そんな大金が払えるはずがない。
「良し!」
「りの?何かいい案でも閃きましたか?」
「諦めましょ!」
「だ、駄目ですよ!?」
帰ろうとするりのを、何とか抑える玲奈。
「このままじゃ・いつまでたっても・この町から出られ・ない・ですよ?困るじゃないですか」
「仕方がないじゃない。お金が無いわけだし、レオナさんの言う通り何処にいるのかが分からないんだから、見つかる保証もない。つまりクエストを依頼したところで、見つかるまでは同じってことでしょ?」
「それは…そう…ですけど。けど、このままじゃ何か…あと味が悪いですよ」
帰ってくるかも分からない宿屋の主人。
ならばほっとけばいい。と、りの達は考えていなかった。
何故なら宿屋の主人は困っている自分達に対し、寝床や食事に温泉にと、たいへん良くしてくれたのだから。
「うむ。どうやらワシの出番のようじゃな」
むくっと、りのの胸ポケットから顔を出すアリア。
「アリア?何かいいアイデアでもあるの?」
「クエストを依頼して、クエストを受ければ良いではないか」
「……それだけ?」
「ん?そうじゃが…な、何じゃい!?その眼は」
「当たり前過ぎるんですけど」
「な、何じゃとーー!?」
ドヤ顔をするから何かと思えば、誰もが考えつきそうなアイデアであった。
「りの。ここは一度、クエストの依頼書を見てみましょうよ」
「まぁ、見るだけなら…」
玲奈に腕を引かれながら、りの達は壁に貼られている依頼書へと目を向けた。
ーーーーーーーーーーーー
ずらーっと並ぶ依頼書。
依頼書には上から、何の依頼か、その依頼に応じた絵、依頼内容、報酬、依頼主の名前が書かれている。
「どれ、どれ〜っと」
適当に壁紙から1枚手にとるりの。
「討伐クエスト。ダイダス平原の奥にある、ダイダス洞窟に住みついたドラゴンの討伐をお願いします。期限は1ヶ月。はは。ドラゴンだって」
ウケるーーっと、玲奈と葵に話しをフルりの。
すると、二人は熱い視線をりのへと向けた。
「さ、流石ですりの!是非、是非そのクエストを受けましょう!!」
「そのウケるーーじゃないわよ!いい、ドラゴンよ、ドラゴン」
「いや、玲奈の言う通りだ。そのドラゴンを倒して我は飼いたい」
「……飼ってどうすんのよ」
馬鹿しかおらんのか。と、内心思いながらりのは依頼書を戻した。
「いい?私たちはまだ駆け出しも駆け出しの冒険者なのよ?ドラゴンの討伐なんて無理に決まってるじゃない」
「ふ。りのよ…我から素晴らしい言葉をプレゼントしてやろう。諦めたらそこで試合終了だよ。とな」
「………いや、人間諦めが肝心だから」
「な!?お、おい、聞いたか…」
「はい。何て、何て恐ろしい事を言うのですか」
安○先生に謝れーーと言う声を無視し、りのは他の依頼書に目を向けた。
やはりというべきか、依頼書の主な依頼は、討伐が一番多かった。
「まぁ、クエストっていったら討伐よね。大体、素材を集めるのだってモンスターの討伐が必須なんだし…ん?」
今にも、スキップでもしそうな顔をした葵が、こちらにやって来た。
「…一応言っとくけど、ドラゴンの討伐なら却下よ」
「ふっ。愚かなり水瀬りの…我を誰だと思っておる。コレを!是非、コレを受けようではないか」
バッと手渡された依頼書を読むりの。
「どれ、どれ…ジャイアントの討伐をお願いします。ジャ、ジャイアント?ジャイアントって何?」
「ん?ジャイアンだろ?ク、ク、ク。ついでにジャイ子も討伐してしんぜよう」
「そのジャイアンなわけないでしょ。大体、ジャイアンじゃなくてジャイアントよ。た、高!?報酬100万Gって…無理、絶対無理よ!!返して来なさい」
報酬にみあった依頼。いや、依頼にみあった報酬というべきか、とにかくクエストとは、報酬が高い=依頼が大変という事である。
「全く。絵が描いていないって事は、未確認生物って事なんじゃないの?いや、未確認生物の討伐って何?待てよ…つまり、聞き込みなどからジャイアントの特徴や生息地を割り出しての討伐って事なのかしら…ダメ。ダメよ!」
ちょっと面白そう…などと考えてしまった自分に喝を入れる。
「このパーティーで私はリーダー。リーダーたる私しかこのパーティーをまとめれないんだから、しっかり、しっかりしなきゃ」
勝手にパーティーリーダーになったりのの元へ、今にも鼻歌が聞こえてきそうな笑みを浮かべた、玲奈がやって来た。
「りの!是非!是非コレを受けましょう!」
「どれ、どれ。甘ガエル五匹の討伐をお願いします。ん?甘ガエルのあまって、このあまだっけ?う〜ん。カエルかぁ」
悩むりの。ちなみにアマガエルは雨蛙である。
「カエルって、ヌルヌルしてるじゃない?気持ち悪いというか…う〜ん。報酬も悪くはないんだけど…」
「いいのが見つかったのか?」
「あっ、葵。うん。甘ガエル五匹の討伐なんだけどね、りのは悩んでるみたい」
依頼書にはこう書かれていた。
・ 甘ガエル五匹の討伐をお願いします。
・ 食材としても人気ですので、討伐後に当店にお持ち頂けるなら特別に無料で調理します。
・ 報酬1匹につき1万G
・ 依頼主 酒場店主 バーバラ
「うん?依頼主はここの店主ではないか」
「そうなんですか?」
「あっ、ホントだ」
悩み過ぎていたりのは、一番下の行を見落としていたらしい。
「そうなんですか?って、玲奈は気付かなかったの?」
「す、すいません。食材として人気って書いてあったので、つい…えへへ」
「うむ。甘ガエルは美味いぞ〜。ワシの大好物の一つでな。噛んだ瞬間の肉汁が堪らんわい」
じゅるり。
食べたい…と、三人は思った。
「なら、ちょっと詳しい話しを聞いて…あっ!ミヤー!」
丁度近くを通ったミヤに声をかけるりの。
「うん?何だニャ」
「これ、何だけどね」
先ほどまで見ていた依頼書を手渡すりの。
「あ〜バーバラのニャ」
「うん。初めてクエストを受けるんだけどさ、あのバーバラさんがクエストを出すくらい難しいのかなぁって思って…」
「ニャるほどニャ。りのは運が良いニャ。実はこの甘ガエルは初心者用のクエストニャ」
「え?そうなの?にしても、報酬が高い気がするんだけど…」
「ニャッハハハ。そうニャんだニャ。バーバラが初心者に向けて出すクエストはどれも高いんだニャ。高いから皆ニャ警戒するんだニャ」
なら、報酬を下げればいいのでは?と、思うりのに対し、玲奈がその答えに気づいた。
「あっ!以前、そんな事をおっしゃってましたね」
"昔バーバラは冒険者だったニャ。だから、冒険者には優しいんだニャ"
「りの達ニャらバーバラもOKを出すはずニャ」
「りの…」
ツンツンと、脇腹を突かれるりの。
りのは考える。
自分達は魔王を討伐しなくてはならない。
つまり、冒険をするという事であり、レベルを上げたり、お金を稼いで防具や武器を買い揃えたりしないといけないという事であるのだから、いつかはクエストを受ける事になる。
「バーバラさんのご好意を、無駄には出来ないわね。良し。受けてみましょう」
「ニャら、レオナに声をかけるんだニャ」
「うん。ありがとう」
手を振るミヤを見送るりの。
そんなりのに、ぽん。ぽん。と、肩に手を乗せる葵と玲奈。
左右を見ると、頑張りましょう!と、二人が目で訴えているのがりのには分かった。
団結。
同じ目的に向かって、三人の絆が深まった瞬間である。
「お〜い。ここに良いクエストがあるぞ〜。チャンピオンの討伐クエストらしいのじゃ」
『チャ、チャンピオン!?』
「………却下よ」
アリアの呼びかけに応じようとする二人の襟を掴みながら、りのはレオナを呼んだ。
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「クエストを受けるだけでいいのですか?」
「はい。このクエストが終わってからまた考えます」
宿屋の主人のクエスト依頼をする為にも、まずはお金を稼ぐ。三人はそう決意していた。
「それに、クエストが終わる頃には帰ってくるかもしれませんから」
「…ちっ」
「ん?今、何か…」
「いえ。では、クエストの確認です。甘ガエルはダイダス平原の南にある湖付近に出没します。5匹倒しましたら、こちらをお使い下さい」
「……コレは?」
「コレは、狼煙をあげるアイテム、狼煙君です」
「の、のろし君?」
「はい。5匹の運搬は大変ですよね?この狼煙をあげる事によって、我々が回収に伺うという仕組みになります」
「へ〜。なるほどねぇ」
「間違っても、討伐していないのに使ってはダメですよ?使った場合は罰金が発生しますので」
「き、気をつけます」
「ク、ク、ク。つまりは一度のクエストで5匹を倒して来いという事なのだな?」
「いえ。それも違います。5匹現れる保証もなければ、別々の場所から現れる場合もあります。ですので、甘ガエルを1匹倒したらすぐに使う事をオススメします」
この後、レオナから一通りの流れを説明される三人。
今から3日の間に、甘ガエルを5匹倒すこと。
倒したら狼煙君を使って知らせること。
甘ガエル5匹以降は、1匹につき千Gでギルドが買い取ること。
全て倒し終わったら、自分に声をかけて報酬を受け取ること。
「最後に、とても重要な事を一つお伝えします。良いですか?必ず守ると約束して下さい」
真剣な表情と声で、レオナは告げる。
「全員必ず生きて、ここに帰って来て下さい」
その言葉に、キュンっとする三人。
「じゃないと、私たちの商売が成り立ちませんから…」
最後の言葉だけは、聞こえないふりをする。
こうしてりの達は、初めてのクエストを受ける事になった。




