『呪い』
それは呪いだ。
私の芯の錆のようで、私の骨と肉と皮を焼く火のようで、私に巣食う寄生虫のようだ。
いつからそれを宿したかはわからない。生まれる前かもしれないし、生まれた後かもしれない。
掠れつつある記憶を辿れば、それは幼い頃には既に芽がある、根深いものとしか言えなかった。
それは呪いだ。
その呪いは私を醜い人間にした。怒り、憎しみ、妬み、驕り、怠け、人間の負の面と呼ばれるものを凝縮したような人間にした。
それが何処から来るのか、何処に向かうのかさえ、私にはわからなかった。
私は憎んでいた、怒っていた、悲しんでいた、妬んでいた、驕っていた。
けれども、何処にもなかったのだ。
私の憎むような、怒るような、悲しむような、妬むような、驕るような、悪は。
そう、何処にも、いなかったのだ。
残ったのは、私の醜さだけだった。
最早、私を構成するものに正しさはなかった。
地を這い、月を仰ぐ猟奇的な獣が、そこにいた。
それは呪いだった、私がそう名付けた。
それは生まれてから、もしくは生まれる前の傷痕だった。
がらんどうな体についた傷痕は、刺激だった。無彩色な画用紙に一滴垂らされた、鮮やかな色だった。
痒い所を掻き毟るように、傷跡を指で押さえつけるように、リストカットするように。
私は、傷痕を増やしていった。
そして残ったのは、傷だらけの私だった。
私が傷つけ、私が呪った、一匹の獣だった。
それは呪いだ。私がそう名付けたが故に、それは呪いだ。
それは傷痕だ、私がそう名付けたが故に、それは傷痕だ。
それは自傷だ、最早する意味を失い、爛れた皮膚だけが残った、私の生だ。