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第二話 リコエッタの憂鬱


 アンジェの妹であるリコエッタは、大きくあくびをした。


 すかさず東洋からわざわざ取り寄せた扇子でそれを隠し、涙目を手でぬぐう。


 ラングランド王国の王城。

 会議の間とも呼ばれる一室に皆集まっていた。

 室内は百人ほどを収容できる作りをしており、金で出来た壁紙など豪華な装飾がなされながらも落ち着いた印象をしている。

 普段は接見や審議を行う場でもあり、今は数十人の貴族とアンジェの妹であるリコエッタ、玉座に座る現王が活発な議論を交わしている。


 ただし、リコエッタは完全に蚊帳の外で、欠伸をするほどひまを持て余した。

 自身のことを話されているのにも関わらずである。


「…わかった。その件は私からシオン君に伝えよう」 


 嘆息を漏らす隣の父を見て、あぁ、父も私と同じく窮屈な心境なのだろうかと、リコエッタは思った。


 皆が話していた内容は、シオンをアンジェとリコエッタどちらと婚礼させるかだった。

 本来であれば、彼と婚約するのは、町に立て札までだしたアンジェになるはずだったのだが、城に集った貴族達は皆そのことに反対だった。

 

 だから、貴族側からの請願という形で開かれたこの会議も、そういう場だった。


 貴族たちは姉ではなく、リコエッタと結婚をさせようとしていた。

 貴族たちは美しい姉のアンジェにどこぞの馬の骨とも知らない男を婚約させたくないのだ。そしてあわよくば自分がと思っているのだろうと、リコエッタはあたりをつけた。実際にその考えはあたっていた。


 王もかばう発言をしてくれたが、最終的には折れる形となっていた。


「……うむ、納得してくれるかリコエッタ嬢」

「すまない、リコエッタ姫。私たちも国の繁栄を思えばこそ、こうして訴えているのです」

 うそをつけと、のど元まででかかった言葉をリコエッタは飲み込んだ。


「ええ、私も王族の娘、いつかこうなる日が来ると覚悟を決めておりました。」


 もちろんその言葉は嘘ではあったが、この時代、恋愛結婚が許されるものではなかった。

 結婚は血族同士の力を強めるためのものだし、自身の王族の娘という立場ではそれに反抗出来るはずもなかった。

 

 姉のアンジェは知らないだろうが、顔も見たことのない隣国の王子との婚約話が、アンジェではなく、まず自分に行くことがどういうことなのか、自分がこの国でどういう扱われ方をしているか、リコエッタはよく理解していた。


 だが、それもこの間の竜が暴れた件で、うやむやになり、今度は首を挿げ替えたように勇者との結婚話が舞い込んできた。納得いかない気持ちもすくなからずあった。


 ――ただ、侍女兼友人ロイスの話では、シオンという男は辺境貴族の三男で平凡な男ではあるが、変態趣味や年がふた周り以上年が離れているわけではないので、まだましな相手だとリコエッタは思い込むことにした。





 会議を終えたリコエッタを待っていたのは侍女のロイスだった。

 彼女は金髪をたらし、ペコリとお辞儀する。


「お早かったですねお嬢様」 

「ええ、それはそうと部屋に戻りましょうロイス。疲れちゃったわ。えっと、そう、シオン様が来るのは夕暮れ時になるから会議は一旦解散になったの」

「作用でございましたか、それでは一端お部屋にもどりましょう」

 二人は会議の間を抜け、そのまま自室に向かう。

 

 侍女のロイスは、数年前にリコエッタの世話係になったばかりだったが、同い年だということもあり、二人の仲がよくなるのにさして時間はかからなかった。

 リコエッタが編み物を教えてもらったのもロイスだったし、人気の恋愛小説をこっそりと貸りて、お互い話あったりもした。しかもそれは貴族と平民が恋をする話で、王族や貴族たちの間で禁止されている。


 二人だけの秘密だった。


 彼女はリコエッタにとって唯一無二の親友だった。

 貴族にも友人はいるが、本当の友人であるかどうかは、リコエッタにとって懐疑的だった。


(あれ、この声は)


 廊下を進んでいると、どこからか男女の楽しそうな声がした。

 すぐにリコエッタには判別がついた、それはアンジェとその友人達の声だったからだ。


 声が聞こえる窓辺によると、下の庭園ではアンジェと、それを囲む貴族達が紅茶を片手に談笑している様子が見えた。

 姉は優雅に微笑んで、その姿に呆けている男もいた。


(……姉にはかなわない。お父様はいつも姉を可愛がっていたし…初恋の人は、姉を好きになった…美貌や魅力全て持っている姉と私では違いすぎる)


 リコエッタはアンジェに劣等感を感じていたが、それでもリコエッタにとってアンジェは自慢の姉だ。

 昔は仲も良かった。


 ただ、年月を重ねるごとに、自身と完璧な姉との間に差を感じるようになった。

 それに母が亡くなり、父は余計姉に傾向するようになった。

 様々な理由があって、気付いたら姉を自然と避けるようになった。

 それに負い目を感じているのも確かだ。


「いかがしましたか?お嬢様」

「いえ、あなただけは私の味方だと思ってね」

「えっと」

 突然そんなことを言われれば誰だって戸惑って当然だろうとリコエッタは思った。


「ごめんなさい変なことを言って。行きましょうロイス。部屋に戻ったらハーブティーが飲みたいわ。この間、お父様に秘密で仕入れたやつね」

「は、はい!」


 嬉しそうな表情のロイスを見て、リコエッタは自身の表情が和らぐのを感じる。

 先ほどまで、どんな感情で姉たちのやりとりを見ていたのか、考えないようにした。




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