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プロローグ
剣と魔法のファンタジー、といえば聞こえが良いが実際は混迷を極める世界だった。
人間は魔族に蹂躙され、怯える毎日を送っていた。だが、時代は進み、人々は鉄を鍛えるようになり、城を築き、魔物たちに対抗する術を身に付けた。
それでも、最強の魔物である『竜』にだけは歯が立たなかった。
その巨大な躯体から放たれる何千度の炎。
鉄をも切り裂くかぎつめ。
毒の効かない体。
どんな賢者よりも賢い知能。
そして何よりも人々が恐れたのは、竜の血の呪いだった。
竜を滅ぼすことは出来ても、その血を浴び、呪いを受けた者は暴れ狂い死んでしまう。
そのうえ、その呪いは人から人に伝染する。
竜は人に恐れられた、多くの災いをもたらすものとして。
混迷の時代、人は竜を、竜のいない土地で、やはり今もおびえる暮らしをしていた。
いつの日か竜を打ち滅ぼす勇者のような存在を望んで。
――だが、この物語は勇者が竜を打ち滅ぼす物語ではない。
一人の少女が愛する人に思いを告げる物語だ。




