とりっく、おあ、とりーとめんとっ!
「とりっく、おあ、とりーとめんとっ!」
「ほら、トリートメントだ。結構お高いやつだぞ」
「はっ、私のギャグを先読みするとは……さすがゆうちゃん! しかも確かにいいやつだ!」
魔法使いの格好をした幼馴染は、俺の差し出したトリートメントを驚きながらも回収した。斜めがけしているのは黒猫の顔の形のバッグである。幼馴染はトリートメントを受取り満足顔で俺の見て、しばらくして気づいた。
「ち、違う! これは私の望んでいたハロウィンじゃない!」
「何が違うんだよ、トリートメントくれなきゃイタズラするって言ったのはお前だろう。俺はトリートメントをあげた。これで終了」
「違うよー。こんなの面白くないじゃん、というかゆうちゃんも仮装して街に飛び出そうよー」
「嫌だよあんな人混みの中歩くの。第一、友達と行くって言ってなかったっけ?」
「はぐれた!」
「連絡くらいすればいいだろ……」
「スマホも忘れた!」
「詰んだな! だからってウチに来なくてもいいだろ!」
そういうと幼馴染はちっちっと指を振った。
「ゆうちゃん、わかってないなぁ。私は今日ゆうちゃんのために来たんですよ? この可愛い私に悪戯されるんだから、それは約得というものでしょう?」
「悪戯したいだけだろお前」
手をわきわきしながら近づく幼馴染に、俺はポケットに用意していたヨーヨーを渡した。
「……なにこれ」
「糸は巻いてあるから、思いっきり下に振れ」
よくわからない顔したまま、いいからと即すとヨーヨーを下に振った。ヨーヨーは回転しながら下に留まる。
「ぐ、なんだと! これはウルトラヨーヨーのトリック(技)の一つ! ロングススリーパーだ! なんて強力なトリックっ……」
「なんか馬鹿にされてるような気がするし、そのトリックでも無い気がするんだけど」
勝手に巻き上がってきたヨーヨーは黒猫の中に入れられる。それも回収されるのね……。
「もういいだろ、俺はトリートメントもトリックも選んだぞ。さっさと里に戻れ魔法使い」
むーっと、不満そうに頬を膨らませる魔法使い。これは玄関からは一歩も動きそうにない。と、その時ポケットの中でスマホが震えた。画面を見ると、はぐれたらしい幼馴染の友人からのメールがきている。友人からも幼馴染の行動は予想通りのようだ。
「ほら、魔法使い。お仲間から連絡がきたぞ。いつもの場所で合流したいって言ってるからさっさと行ってやれよ」
「わかったよぅ! ちぇっ! ゆうちゃんは全然わかってないんだから」
ちょうどその時、台所の奥から小さな音が聞こえる。その音は幼馴染にも聞こえたらしく、ドアノブを掴んでいた手がピクリと反応する。玄関まで充満する甘い匂いに、幼馴染もとっくに気付いているだろう。とんがり帽子の魔法使いは、おずおずとこちらを振り向く。俺がにやにやと笑いを抑えているのを見て、幼馴染はぱっと笑顔になった。
「とりっく、おあ、とりーと!」
魔法使いの格好は少し恥ずかしかったけど、ゆうちゃんの家に来てよかったと、私は月明かりの下に飛び出す。スマホを取り出すと、作戦成功! とのメールを友達に送った。バッグの中にあるまだ暖かいクッキーは友達にも分けてあげよう。
「その前に、先に一つだけ、いただきまーす!」
オレンジの紐でラッピングされている、カボチャの絵が書かれた袋。ゆうちゃんも恥ずかしがり屋だ。ちゃんと用意してくれてるんだもの、と思いながら薄紅色のクッキーを一枚、口の中にほおり込んだ。クッキーは口の中でほろほろと砕けていく……そしてすぐにその異常に気付いた。
「辛ーいっ!」