5、シガレッティ・ビックレイク
『はんぺん事変』
「ふんふんふーーん」
鼻唄を歌いながら庭にホースで水やりをしていると、急に水が出なくなった
「?」
ホースの先をたどると、そこにはホースを踏む巨大なはんぺんがあった。
「はんぺんじゃなーーーい!みえちゃん、そいつ捕まえてっ!!」
オーサさんが後ろから走ってくる。
「え、え?」
オーサさんに気づいたはんぺんが、慌てた様子で足?をホースからのけた
当然の帰結として、解き放たれた水がホースから暴発し、
「うわああああああ!!服が!!」
私の着ていた服がびしょびしょになった。
『はんぺんの正体』
「あら、あらあらら。」
無事、オーサさんははんぺんを捕まえられたらしい。はんぺんの胴に縄を巻いて引き連れている。
私は無事じゃない。
「着替えないとね」
「一張羅だったんだけどなぁ」
私は服を3つしか持ってない。今着てた私服、学校の制服、学校の体操服の3つだ。
「じゃあ、私の部屋においで?服を貸してあげわるわ!」
オーサさんが部屋に向かおうと踵をかえす。…はんぺんを引き連れたまま。
「ちょ、まてまてまてまてオーサさん。...その方(?)は?」
「あ、この人?この人はシガレッティ・ビックレイクさんだよ。」
『笹かまぼこ』
「こちらシガレッティ・ビックレイクさん。北欧出身の精霊さん。」
シガレッティさんの白いからだは高さ二メートルくらいあって、なんとなくヒトガタを思わせる優しいフォルムをしている。近づくと、笹かまぼこのような白い鱗?羽毛?体毛?がびっしりと生えているのがわかった。
「シガレッティさんも私の部屋に用事があるのよね?ちょうどいいからみんなていきましょっ!」
「……………………………………」
シガレッティさんの、人間で言うと顔の部分も笹かまぼこにおおわれている。ので表情は分からなかったけど、シガレッティさんが冷や汗をかいているコトだけはなんとなくわかった。
「シガレッティさん、さっきオーサさんから逃げてなかった?」
「さっ、いきましょ!」
『制服の理由』
「オーサさんの部屋大きいね」
オーサさんの部屋は館の地下にあった。
「私の部屋兼スタジオだからね。特別なのよ」
入り口から程近いスペースは魔方陣が書かれたりなんかして、THE・魔女の部屋って感じだったけど、奥の方にはベッドがあって、回りをパステルカラー(ピンク多め)で統一された化粧台や洋服ダンスなどの家具が囲んでいた。
「さあ、着替えましょ!」
オーサがタンスを漁ると色とりどりの服が出てきた。
「…オーサさんいつも制服だから、服持ってないかと思ってました。」
「うちのテニス部厳しいからね。いつ召集かかってもいいように制服で過ごすようにしてるのよ」
(ガチ体育会系魔女て…)
『もう逃げられないわよ』
「スカートも似合うじゃない!カワイイカワイイ。」
「うんんん。なんか落ち着かないけど…それよりも、はんぺんじゃないシガレッティさん放置してていいの?」
柱に繋がれたシガレッティさんは部屋の隅で体育座りをしている。
「あ!そうだった!」
オーサさんはセーラー服のスカートを手ではたいて正すと、シガレッティさんに向き直った。
「さ、ヘンシンしましょうか。大丈夫、何にも怖いことなんてないわよ」
「…………………」
シガレッティさんがあわあわしてる。
オーサさんが星付きの杖を拳銃のように突きつけた。
「安心して。一瞬で終わるわ…」
(セリフが悪役!)
『服は自動生成されます』
「ビビリバリデビュー!!!」
意味不明な掛け声にあわせてオーサさんが杖を振ると、シガレッティさんの足元の魔方陣が光って、光がその巨体を包み込んだ
ややあって、光が消えた。
魔方陣の上には、はんぺんの代わりに、ジーパンTシャツを着た外国人のお兄さんが立っていた。
「………!」
お兄さんは、自分の両手を見つめてビックリしている。
「ふう。うまくいったわ」
お兄さんが口を開いた。
「拙者は…人間になったでござるか?」
(拙者!?)
『ござるで候』
「シガレッティさん、時代劇を見て日本語の勉強をしたらしいのよ。まぁちょっと変だけど、人間界講習では優秀な成績を修めてたから大丈夫でしょ。それに、人間初日は私がサポートすることになってるから安心して。」
「お頼み申すで候」
(見た目は外人さんなのに!金髪碧眼なのに!)
「えーと、シガレッティさんはなんのために留学するんでしたっけ?」
「拙者は人間と仲良くなりたくてござる。」
「わー!オーサさん、この人いい人だー!」
「人じゃないわよ」
オーサさんはなにか資料のようなものを眺めていた。
「ふむふむ、明日から用務員として働くコトになってるのね…。そしたら、今日は人間に慣れるために駅前の繁華街にでも…。」
その時、オーサさんの携帯電話が鳴った
「…げ、テニス部の緊急召集だっ。行かなきゃ…でもどうしよう、人間初日は誰かがサポートについてあげなきゃいけないんだけど…」
はたと目があった
「そうだ!!」
「え」
『ご都合主義河童』
「頼んだわー!大丈夫、みえちゃんこそ正真正銘の人間だから!」
そういい残して、オーサさんは部活へ向かってしまった。
「……えー、どうします?オーサさんが言ってたように駅前にでもいきますか?」
「拙者、行きたいところがござる」
「え?」
シガレッティさんが行きたいと言ったのはとなり町の高校だった。
「でも、どうやっていこう。歩いていける距離じゃないし、電車賃なんて大金、私持ってないしな」
「ふふふ、お困りかな?」
「のどかちゃん!?」
のどかちゃんの手には、重そうな皮袋が握られていた。
「こういうときこそ、経費の出番だよ!」
のどかちゃんが掲げた革袋から、じゃらじゃらとすてきな音がした。
『タイトル回収』
「それにしてもナイスタイミングだね。どこかで私たちのこと見てたの?」
「ふふん、何せ私は河童だからね。」
(説明になってない!
電車に揺られてたどり着いた高校は、小高い丘の上にある商業高校だった。
「シガレッティさん、こんなところに来て何するの?…てアレ!?」
さっきまで隣にいたはずのシガレッティさんがいつの間にかいなくなっていた。
見ると、シガレッティさんは空中の見えない階段を上るように屋上に向かって飛んでいた。
「まったく、さっそく禁忌破りしてるよう。人間界留学禁忌その11、『人間界では飛ばない』。基本中の基本なのにねぇ」
のどかちゃんが私の手を握った。ふわりと奇妙な浮遊感が腹下に漂う。
「え」
気づいたら、私たちは屋上に向かって風のように飛んでいた
「ちょっとまってのどかちゃん、アナタも現在進行形で掟破りだよね!?」
『見られた!』
「のどかちゃんって、空も飛べるの…?」
「へへへ、だって河童だからね」
(説明になってない!)
屋上では、一足先に着いていたシガレッティさんが奇妙なポーズで固まっていた。
彼の視線の先には
「わっわああわあわわわ…人が降ってきた…?」
ブレザーの制服を着てトランペットを持った、ボブカットの女子高生が口に手を当てて目を丸くしていた。
そのお姉さんが叫ぶ。
「おやっ…親方―!!空から女の子が!!!!!!」
「「親方!?!?」」
『もはや殺人級』
「親方って誰だろう…」
「あのおねぇさん、見かけによらず、どこかで丁稚奉公してるのかもしれないねぇ」
(デッチボウコウ…?)
「なっ、楢崎殿!拙者は決して怪しいものではござらぬ」
「わっ、私の名前知ってるの!?!?……もしかして、どこかでお会いしたことありますか?」
楢崎さんが髪を耳にかけながら目を細めた。
「覚えてござらぬのも無理はない…しかし、拙者はおぬしの奏でる楽の音、忘れたことはござらぬぞ。…故郷を偲ばせる、それはそれはすてきな音であった。」
「え?私のトランペットのこと?」
楢崎さんが嬉しそうに声を弾ませた。笑顔のままマウスピースに口を付ける。
♪ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおええええええええええええええええ
(ちょおおおお!!!へたくそってレベルじゃねーぞこれ!)
『バレてる!』
「私、へたくそだからみんなの中で練習させてもらえなくて。だから部活の時間中ずっと一人屋上で練習してるんだ」
「そうだったんですか」
「あ、私、楢崎すう!よろしくね、シータ!!」
(しーた?)
「わたしは八重木みえです」
「のどかは、若山和だよ。よろしくねお姉さん」
「小学生?かぁわーーいいなぁあ」
私たちよりも頭二つ分くらい背の高い楢崎さんが、きれいな手で私たちの頭を撫でてくれた。「やっぱロr…小学生はサイコーだな!」とよくわからないことを言っている。
「拙者はシガレッティ・ビックレイクと申す。以後お見知りおきを」
楢崎さんはシガレッティさんに向き直ると、うひひと笑った。
「シガレッティさん、思い出したよ。あなた川辺で私のトランペットを聞いてくれていたはんぺんさんでしょ」
「!!!!!!???!?!??!!!」
『おしい』
(のどかちゃん!楢崎さんにシガレッティさんの正体バレてるよ!!)
(うーん、楢崎さんただものじゃないかも)
「せっ拙者のことを覚えているでござるか…?」
「うん!去年の秋だよね。夕暮れの中一人寂しくトランペットを吹いてた時。」
「まさか…だって拙者の姿は人間には見えぬはず…」
「はんぺんの精霊っているんだーって思ったのが印象に残ってたんよ?」
「拙者は一応雪原の精霊でござる……」
『恩人の名前』
「でもありがとう。私あの時部活辞めるかどうか悩んでたんだ。そんな時、アナタが私のトランペット聞いて、すごく楽しそうに体揺らしてたのが見えて……自信が持てたんだ。おかげで今も部活を続けられてるんだよ」
「そう…だったのでござるな。拙者はもう一度そなたの楽の音を聞きたくて…いや違う。こんな素敵な音を奏でるのはどんなヒトだろうかと、一度でいいから話してみたくなってしまって、こうして人間の姿になったのでござる」
「一度と言わずに、何度でも!私もはんぺんさんと話せてうれしいよ!」
「拙者、シガレッティと申す…」
『稀にいるタイプの人間』
「楢崎さん、どうしてシガレッティさんがはんぺんさんだって分かったの?」
「私、視えちゃうんだよねぇ~…へんなもの」
うひひひひいと楢崎さんが笑う。
「そうなんだ。じゃぁシガレッティさんは無理して人間の姿にならなくても、楢崎さんとは話せたかもしれないね」
「いや、それは無理でござる」
「へ?なんで?」
「原形の拙者には口がないでござるからな」
(そういえばたしかに!!)
『八重木みえの日記②』
こうして、シガレッティさんと、ならさきさんは無事なか良くなれたみたいでした。
しかもシガレッティさんが明日から用む員として働く学校は、なんと、ならさきさんの通う高校のようでした。
のどかちゃんが「ごつごう主義バンザイ」と言っていました。
たのしかったです。