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2、わかやまのどか

『わかやまのどか』


「昨日ははひどい目にあった…」

学校の自分の席でそうつぶやいて、机に突っ伏した。

「みえちゃん元気ないねなにかあった?」

となりの席の若山和。成績優秀品行方正眉目秀麗というわけで友達が多いクラスの人気者だ。

でも私は友達じゃない。多分。あんまりしゃべったことないしそもそもこの学校に私の友達はいない。

「のどか、貧乏人としゃべると貧乏がうつるよー」

「うわ、あいつなんか臭くね?びんぼーしゅーびんぼーしゅー」

「お祓いだー。ナンミョウホウレンソウキライー」

クラスメイトからの中傷なんて、いつものことなのでなんとも思わないが、確かに

(なんか匂うな)

「もー貧乏が伝染するわけないのにねー」

若山和がキュウリの一本漬けをかじりながら、不服そうに呟いた。

お気遣いありがとう。

いやまて、

「ちょ、キュウリーーーー!!!!???」






『きゅうりブーム?』


「なんかいい匂いすると思ったら、お前か!てか何で学校にキュウリの一本漬け!!??」

「美味しいよ。食べる?」

「二本目あるんかい!いや、食べないけど!!」

「よかった。今日は三本しか持ってきてないから食べたいって言われたらどうしようかとおもった」

(そもそも、学校への食べ物の持ち込みは、校則違反じゃぁ…)

「帰りの会を始めます。ほら、座りなさい。…ん?」

先生が、めざとく若山和のキュウリを見つけた。

(怒られるっ!)

「今日は一本漬けですか。若山さんは乙なものを選びますね。ちなみに先生は糠漬けの方が好きです。」

眼鏡をくいっとさせながら先生が言う。

「僕は一本漬けー!」「私は浅漬~!」「おれはマヨネーズ」

と生徒からも肯定的な声かあがる。

いやいやいやいや、なに、わたしが間違ってんの???





『そう言う先生の頭は焼け野原』


「成績表をお返します。名前の順の逆からなので…若山和さん」

はい、と若山和が席を立つ。成績表を渡しながら先生が猫なで声を出した。

「成績優秀で何より!若山さんはいつも一番ですな!テストの点数もいつだってナンバー1です!成績表はモチロン、オールAですよ」

(1点ってこと?それってとんだアホウじゃん…)

クラスメイトから拍手が沸き起こった。このクラスくるってやがる。

「八重木みえ」

先生の声が一転して冷たくなる。

「アナタは素行が悪すぎる。だいたいね、その金髪、全然似合ってませんからね!」

わたしの髪の毛は生まれつき茶色というか、金に近い。そのおかげでよく問題児扱いされる。「小学生がませた真似して…幼女は黒髪ツインテールが至高…まったく、その秋の田の稲穂のような髪色はまったくまったくいただけませんね」

(気持ち悪い上にちょっと詩的なおっさんだな)






『ご令嬢ですか?』


「いっしょにかえろう」

若山和が三本目のキュウリをかじりながら私が背負うランドセルに抱き着いた。

「い、いや…なんで?」

(わたしたち、ともだちでもないのに?)

「だって、帰る方向いっしょだもの!」

「そうなの?でもごめん。わたし昨日引っ越したから…」

「うん、うん。知ってるよ。みえちゃんのどかの家に住むことになったんでしょ?」

「え?」

「うれしいな~!のどか、ずっとみえちゃんと仲良くなりたいとおもってたんだよ」

(わかやまのどか…若山厳…)

「ああああ!まさかお前―――!!」





『モンペ』


「ただいまーー」

「お邪魔します…」

洋館のエントランスホール通って、食堂へ向かう。長机が並べられたその隙間を通って、さらにその奥の部屋へ入ると、美しい黒髪を垂らし、明るいテラス席の白いテーブルに肘をついいた女性がもの憂げにこちらを見た。

「お母さん、紹介するね!わたしのお友達で、昨日からこのうちに住むことになった八重木みえちゃんだよ!」

「よ、よろしくおねがいいたします…」

「そちが…そうか。そうなのだな…」

ハスキーな声。時代劇のような喋り方。恐ろしいほどに美しい女性だ。その切れ長の目は怪し気に光り、冷たく私を射ていた。

(こわっ…怒ってる?)

「ウチののどかをよろしくなぁ~~~!ワラワに似て、この子、友達がいないからぁ~~!!」

泣きすがれてお願いされた。まじか。





『いろんな意味でモンペ』


「すまぬ。あまりに嬉しくて取り乱してしまった。わらわは高潔と言う。以後よしなに…」

「イイエ。だ、大丈夫です…それよりも、友達がいないだなんて…。のどかちゃんはクラスの人気者ですよ?」

高潔さんははぁーとため息をついた。

「あれらは友達とは呼べぬのじゃ。普通の人間どもはワラワ達の偉大すぎるカリスマ性に目がくらんでおるだけじゃからのう」

「どういうことですか?」

「ワラワはな、日本の沼という沼を統べる大妖怪、大河童なのじゃよ!!!」

腰に手を当てて、高潔さんが胸を張った。

わたしは高潔さんが座っていたおしゃれな白いテーブルの上に目を向けた。赤ワインが継がれたグラスと共に、酒のアテが置いてある。

(なるほどだからピクルスか…)





『種族を超えた愛』


「えーと、つまり、のどかちゃんって高潔さんと厳さんの子供ってこと?」

「うん。人間風に言うとハーフってやつだね」

「のどかちゃんは天狗なの?河童なの?」

「のどかはどちらかというとワラワに似て河童寄りじゃな。なにせ皿をもって生まれてきたからのう。」

「皿を!?そうだ、そう言えば河童って頭の上に皿があって、相撲が好きなんだっけ…?」

「もー、やだなぁそれはだいぶ前の話だよ。今はね。大切なお皿は体とは別にして、大事に保管することになっているの」

「その通りじゃ。例えばワラワの皿は今あそこに…」

と高潔さんが指さしたのは、庭に設置された噴水の受け皿だった。

「大事に保管とは!?1?!?!」





『皿ブレット』


「皿は、常に湿ってないといけないのじゃ。皿が渇くと河童の命にかかわるからの」

「そうですか…ちなみにですけどのどかちゃんのは」

「私のは、花瓶として使ってるよ」

(皿を有効活用しなくちゃいけないというキマリでもあるのだろうか)

「というわけで、わたしのお母さんは大河童なんだけど…ちなみに言うと私のパパは、エベレストを統べていた大天狗なんだよ!!」

すげえ!てか

「ネパールに天狗っているんだね!!!!!」






『施設紹介』


「じゃぁ、このお屋敷を案内するね」

高潔さんにお別れしたあと、わたしたちは屋敷の中を見て回った。

「ここは皆が集まる食堂。朝と夜の二回、ビュッフェ形式でご飯が出るからみえちゃんもたべにきてね」

言われなくともである。

「ここは留学候補生たちの寝室。かってにに入っちゃだめだよ、特にみえちゃんは人間だから…」

言う傍から、部屋の扉を開けてオオカミの頭をした人が出て来たり、蝙蝠がのどかちゃんに「ちわーすお嬢!」と言いながら黒いマントを羽織った外人さんに変化したりとてんこ盛りだ。狼男と吸血鬼かな?

「…大丈夫。わたしまだ餌になるつもりはないから…」

「それと、ここがお風呂だよ」

のどかちゃんがメルヘンな扉を開けると、昼間だというのにお湯につかった女性がこちらにむかって手をひらひらと振った。豊かなブロンドの髪が垂れて、豊満な胸を隠している。

「あっら~ん、のどかちゃんじゃない。おひさ~。そちらのかわいい子ちゃんは新入りかしらぁ?」

のどかちゃんは無言で扉を閉めた。

「あの人、人魚なの。人間界に留学するつもりで来たのに、あのお風呂が気に入っちゃってあそこに住み着いちゃったんだ。…滞在費滞納してっからに…」

「キョウティーナ・コト―よ!キョウちゃんってよんでねぇ~」

(無表情ののどかちゃん、迫力あるなぁ)






『圧倒的マイノリティ』


「そういえば、厳さんはこの洋館は人間界への留学支援施設って言ってたけど、具体的に何してるの?見た感じ、ただの宿泊施設みたいな感じだったけど」

「うーんと、人間界に留学に出るためには、まず姿かたちを人間に近づけないといけないでしょ?それをてつだうのが一番の仕事なの。あとは人間界のマナーを教えたり、入り込む学校や職場を手配したり…色々やってるみたい」

「そうなんだ。じゃぁ、この洋館には私みたいなスタッフ側の人間も何人かいるってことだね!」

「あはは。なにいってるのー。会長と理事長が河童と天狗なんだよー。スタッフも人間以外でそろえてるに決まってるよー」

「えじゃぁ」

「人間は、みえちゃんと、みえちゃんのお父さんだけだよ?」

(そんな気はしてた!)






『どこまでも屑な父』


すっかり夕暮れになっていた。

「ただいまー」

庭小屋の扉を開けて、ランドセルを部屋に投げ入れる。

お父さんはまだ帰っていないようだった。

「あれ?」

この部屋唯一の家具であるちゃぶ台(お父さんがゴミ置き場から拾ってきた)に何か紙が置いてあった。手紙のようだ

「なになに?」

『みえへ。お父さん、やっぱり庭師は向いてないみたい!俺は東京で歌手になるぜ!一発当てて、500万なんてすぐに返済だ!夏休みが終わる頃には戻ります。八重木四方』

「…うそだろ…」





『ナイスアイディア!』


「もうしわけありません!!!!」

高潔さんと厳さんに向かって、土下座。

「いや、いいのじゃよ?おぬしはのどかの友達なのだし…」

「エエ。500万の返済が数か月滞るくらい、何ともないですぞ。みえさんはお父さんが戻るまで、ごゆるりと暮らしてくだされば…」

「でも、それじゃぁ申し訳なくて。だって朝と夜の二回は豪華なビュッフェを頂くわけですし…」

「アッそこは食べる気満々なんだ…」

うーんと大妖怪二人は唸った。

「ドウシヨウか、会長よ」

「どうするかのう、理事長よ」

そこへ、どこからともなくのどかちゃんが現れた。

「なら、みえさちゃんが庭師の仕事をすれば、みえちゃんも気がねなくうちにいられるんじゃない?」

「のどかちゃん!」





『ずるは嫌いだけど』


というわけで、私は明日からこの洋館の庭師として働くこととなった。

(むふふふ。よかった。これで気兼ねなく堂々とビュッフェを食らうことが出来るぞ)

天狗やら吸血鬼やら何がいようが関係ない。ごはんが食べれるならそれだけで十分だ。

「ただ、ずるは嫌いなんだよなぁ…」

我ながら損な性格だとは思うけど仕方がない。

「それにしても、庭師ってどんなことやればいいんだろう」

うーん。水やり?雑草抜き?

(まっいいか!どうにかなるでしょ!)

わたしは寝ることにした。

行き当たりばったりでテキトウなのは父親譲りなのであった。


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