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きっと

作者: 七夕ハル

 きっと、僕は知っている。もう二度とあの季節は戻ってこないことを。信じていた友も去った。僕だけの「あいつ」も行ってしまった。とても遠くへ。僕の悲しみも、やがてありきたりの心情へと変化していった。何よりも大切に思っていたはずのものが、消え失せてしまうのは、いつだって悲しいと思う。でも、僕の中でそれは徐々に気づかない程ゆっくりと進行していった。毎日の変化は時間という悪魔のなせる技なのだ。揺れる真実の実を見つけようとする旅は終わった。とても新鮮な快足の野菜に乗った僕の空への道程は露となって消えた。過去は様々な因果を運んでくる。ちょっとした楽しみのために作った僅かばかりの傷痕が、未来へ向かうベクトルにおいては、とても大きな裂け目になってしまうことを僕は今では身を持って知っている。そんな僕はみんなに言いたいことがある。「楽しむことの後ろには邪悪なる意志が働いている」向日葵の花が咲くように、僕の心に咲いた楽しみを求める心、そう太陽を求めるあの花のようなものだ。それが、きっと今では夜という闇に沈められてしまうことを僕は学んだ。そして、それから、僕の人生は空虚な残骸となった。残骸を拾い集めようとすることは無駄なことだった。過去の僕はもう、どこにもいない。死んでしまった人よりも遠い自分がそこにいた。「あいつ」より昔の僕は遠くなってしまったのだ。燃える馬が焼ける音が聞こえる。馬の肉を食べるのは久しぶりだ。肉はいつでも、僕を遥かな追憶へと誘う。麝香の匂いは僕にとって何の意味もない。ただ、肉の焼ける匂いだけは僕を過去への時空を越えさせる。何度、思い出すまいと努力しても、無駄だった。僕の脳細胞はきっと、過去の自分を覚えているのだろう。それでいて、決して、16歳の頃の僕には戻してはくれない。肉体は不可能なのは百も承知だ。せめて、せめて、気持ちだけでも戻して欲しいという僕の永遠の願いを脳ははねつける。お前の世界はもう断ち切られた。全ての美しいものは去ってしまったとでもいうように。友は今もどこかで生きているのだろう。それが、僕が僕として復活するための唯一の方法に思えてくる。会って何を話すというのか?もう、二人の道は地獄と天国程に離れてしまったはずだ。骸骨の転がる道を歩くのがどちらであれ、花の咲き乱れる道を歩くのがどちらであれ、僕らは、あの時、確かに人として大事なものを失ってしまったんだ。友よ。君はどうして、行ってしまったのか。まだ、二人の人生が離れてしまったのを信じられない僕は、軟弱者だ。精神の高みがあるとしたならば、過去を客観視できることかもしれない。でも、僕はその高度ではきっと息ができない。そういう人種だと、知った時僕はじっと、手の平を見て、握った。再び手を開けても何も残っていない。前に進めなければいけない。今、僕は静かに、部屋で決意する。邪魔する者は何人たりとも許さない。しかし、もし友が僕の前に現れたなら、同じ決意で臨むことができるだろうか。まだ、わからない。人は予測はできても、結末までを予測できない。数学的論理構造のように人の気持はできていない。その不確定要素が、僕と友を引き離し、「あいつ」を失わせたのだろう。さあ、最後のフィナーレだ。

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