怪異
少女…「灯」。とある財閥の娘。母の浮気の末に生まれた子供で、持って生まれた力のこともあり祖母以外に疎まれて育った。唯一の味方がいなくなり、虐げられて育つ。命の危険に会い逃げ出したところでクロウと再会した。
怪異…「クロウ」。いわゆるスレンダーマン。灯の幼い頃の知り合い。灯が名を与えた怪異の1人。灯をどんなことをして何を犠牲にしてもいいくらいに愛してる。自分の元から逃げ出されるくらいなら両足切り落として監禁したほうがマシとか考えるレベルのヤンデレ。
真っ暗な闇の中で逃げ場を探して走り回る少女は、必死になって追っ手から逃げ回っていた。
見つかれば、間違いなく殺されるか実験体にされるかのどちらかだろう。それ程までに、少女の持つ力は危険で利用価値があった。
全ての怪異に愛され、支配する力。だが、少女はその力をまともに使うことができなかった。
本来ならば奪い、押さえつけるはずの力が、少女は逆に力を与える結果となったのだ。 しかし、だからと言って危険が消えたわけではない。
ただただ逃げ続けながら、少女は祖母の遺言を思い出す。
祖母も、怪異に愛された女性だった。この力の使い方を教えてくれたのも、祖母だった。
"その力は、決してむやみやたらと使ってはいけないよ。あとで後悔するのは自分なのだから"
"本当に必要になったときにだけ、その力を使いなさい"
"いいかい?力を使う方法はねーー"
不意に、足首に何かが巻きつき転ばされる。転んだまま、悲鳴を飲み込みノロノロと顔をあげるとそこには1人の怪異がいた。二メートルはあるだろう身長に、痩せ細った身体。その顔は真っ白で、目や口のパーツの形に窪んではいるものの、それ自体は存在していなかった。
恐怖に身がすくみ、嗚咽が漏れる。気がつけば頬を涙が流れ落ちていた。
「いや…死にたくないっ」
なんとか逃れようとするが、足首の拘束はちっとも緩んではくれない。それどころか、きつくなっている気さえする。なおも逃れようとしているうちに、胸に違和感が宿った。
“なぜこの怪異は私にこれ以上何もしてこないのだろう”
「…ア、アカリ……ダイ、ジョウブ?」
突然口を開いた怪異に、頭が真っ白になる。どうして私の名前を知っているのか。
その場にへたり込み、呆然と怪異を見つめる。いつの間にか、足首の拘束は解かれていた。そうしているうちに、ある記憶が蘇ってきた。幼い頃、いつもそばにいてくれた存在。祖母が亡くなった時も一緒にいた。その頃は、まさかその相手が怪異だなどとは思いもしなかった。
「ほんとに?本当にクロウ、なの?」
"力を使う方法はねーー
ーー怪異に名を与えるんだよ"
初めて会った時、全身真っ黒な格好からまるで鴉のようだと名付けた名前。その名を未だに混乱したまま呼ぶ。名を呼べば、どこか嬉しそうに微笑んだーーーように見えた。
「どこだ、どこにいる?!さっさと捕らえるぞ!!」
数人の男たちの怒鳴り声が轟く。早く逃げなきゃ。少女ーー灯は、やがてゆっくりと顔を上げクロウを見つめた。
「ねえクロウ。お願い。私を助けてくれる?」
灯は、クロウがコクリと頷くのを見て、幾らか緊張を和らげた。ありがとうと囁くように呟けば、クロウの手によって軽々と横抱きにされる。いわゆるお姫様抱っこである。ちょうどクロウの首の位置に顔があるため、その表情はわからない。尤も、もともと顔自体が無いも同然なのだが。だからこそ、灯はクロウの口元がニヤリと大きく弧を描いたのを見ることはなかった。
モウニドト、ハナサナイーー。
もしかしたらまた続き書くかもしれません。