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たどり着いたのは、謎の世界

ここはどこ?

真っ暗。怖い。いやだ。

早く、早く。

あの、明るい方へ。


光差す楽園。大昔の賢者がそう名付けたのも頷ける、美しい空中庭園。大小の浮島に、島から島へと流れ落ちるキラキラと輝く滝の数々。人々は、飛雲(とびぐも)を使い、空を渡る。

けれど、ひときわ目を引くのは、中央にそびえる巨大な女神像だ。滝や島は、女神像を取り囲む様に絶妙に配置されたかと思うほど。まるでその光景は、一枚の絵画のようだと、訪れる者は評した。


暗いトンネルを抜け、たどり着いたのは、そんな場所だった。たどり着いてから、今日で三日目。

最初の頃は、どう考えても、あの世に来たとしか思えなかった。

『何、あれ。島が、浮いてる!』

『くっ、雲に人が乗って飛んでる!』

何より、一番初めに驚いたのは、女神像だ。

『キレイ……でも、でかっ!』

この、遠く離れた“(かこい)”からでも、その大きさは推し測れた。

『ビル何個分……? いや、タワー……いや、山?』

多分、住んでいた地元近くの山くらいの高さはあるだろう、女神像は、右を向き、目線の先の浮島に少し驚いた表情でその島から流れる滝を右手で掬っている。左手は胸に添えられ、少女の様な可憐な仕草が、愛らしいと思った。


花澄(かすみ)?」

名を呼ばれ振り返ると、姉様(あねさま)がいた。

本当の名前は、笹乃(ささの)というのだそうだが、この場所(異世界? と、今は思っている)では、許嫁(いいなずけ)のいる女性を姉様と呼ぶしきたり(?)がある様で、私も彼女のことを姉様と呼んでいる。

「何か、帰れそうな手がかりは見つかった?」

姉様の言葉に、私は微笑んで首を振った。

「いいえ。トンネルが多すぎて、どこから来たのか、皆目……」

「そう……」

姉様も、残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直すように笑いかけてくれた。

「今日はね、あなたの好きだと言っていた、オムライスを作ってみたの。早く帰りましょ」

この三日間、私は姉様の住む“野辺(のべ)”の食堂兼喫茶店『三日月亭』でお世話になっている。

まだ、空は青いままだったが、もうそんな時間かと、慌てる。ここは“囲”。中空に位置する、女神像と浮島等を取り囲む様にして造られたこの世界の壁。因みに、どうもコンクリート製らしい。その中程に平行に張り巡らされた通路。手すりの下は気が遠くなるので、もう一度覗く勇気が、未だに起きない。通路の五~十メートルおきに、小さな、人が一人通れるくらいのトンネルがある。決して新しいものではなく、年代を感じさせるトンネルだ。

三日前、どのトンネルから出てきたのか、わからなくなっていたが、今日はもう、三日月亭へ戻らなくては。

三日月亭のある“野辺”は、女神像の足元に位置する場所で、人々が生活している。

一見、私の住んでいた日本(くに)にある、古い洋館の様な建物が並ぶ、レトロな雰囲気の街に思っていた。少なくとも一日目は。住んでいる人々も、日本人の様で、安堵し、きっと自分はテーマパークに迷いこんだんだと思い直そうとしていた。けれど、二日目になる前に、気付いた。

三日月亭に案内され、泥だらけだったので、お風呂を勧められ、断れず入り、その後、事情を聞かれていた時のことだ。

ある違和感を覚え、姉様に尋ねた。

『あれ? 何でですかね? さっきからずっと、窓の外、茜色……?』

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