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九十九話目

「レイ、ちょっといいかい?」

「はい?」

 昨日から一夜明けた朝練からの帰り。そろそろ時間になったので教室に向かっていたところを小林先生に見つかり引き留められた。だが、先生の表情から察するに悪いことではなさそうだ。むしろ好意的な印象を受ける。

「あのさ、もうレベル十分上がったから今日から本格的にロングトーンに参加してみようか」

「いいんですか!?」

「もちろん。毎日練習しているおかげでだいぶ上手くなってきたじゃないか。職員室でも評判だよ? ここまで練習する生徒は近年稀だって」

 自分の努力が評価されていたことは確かに嬉しい……が、まだ不安だ。確かに以前よりは格段にマシになっただろうけど、音はぶれていたり音程もあっていなかったり、つまるところ未熟なのだ。到底あの中に入れるとは思えない。

「まぁ、ミスしてもいいんだよ。練習なんだから。要は本番に活かせばいいのっ! ダメだったで終わるんじゃなくて、次どうしたら同じミスを繰り返さないか考えればいいんだよ。それが吹奏楽、それが音楽さ」

 こちらの心を読んだかのような先生の言葉。それなりに教師になって長いらしいから俺のような生徒を何人も見てきたのだろう。流石といったところだ。

「それに、不安だっていうなら自信を持っていい。練習は絶対に嘘はつかないし……」

「楽器も嘘はつかない……ですか?」

 その言葉にぎょっと目を見開き驚愕の表情を浮かべてみせる先生……だが、次の瞬間にはニッと笑み、

「わかってるじゃないか。つまりはそういうことだよ。レイは確かにキャリアも実力もまだまだ全然足りない……でも、一つ他の部員に勝っているところがあるとすれば、それはその努力だ。大丈夫、きっと大丈夫だ」

「……はい!」

「よしよし、いい目だ。にしても……」

 そこで悩ましげに首を捻り、

「やけに成長が早いね……教本を読んだからってレベルじゃない。それこそ誰かからマンツーマンのレッスンを受けているみたいだ……もう一回聞くけど初心者だよね?」

「はい。そうですよ?」

「う~ん……まぁ、いっか。上手くなってくれるぶんには全然かまわないしね」

 先生はカラカラと陽気に笑うが、こちらは内心ひやひやだ。もしかしたらあいつらの言葉ばれるのではないか……そんな不安が頭をよぎってしまった。


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