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九十八話目

「う~む……難しい」

 帰宅後、MCたちに言われたとおり譜読みをしているのだが、いかんせん上手くいかない。ゆっくりのテンポでやっているのだが、どうにも遅すぎてストレスが溜まるし、その上俺の楽譜はメロディーでもないただの刻みだ。やっていて正直これだけでは味気なさすぎる。

「ん~もう一回やってみるか」

 テンポをゆっくりにしてマウスピースを装着し、素早く大きく息を吸って刻んでいく。その際にもなるべく楽譜は見ないようにしながら、一音一音丁寧に吹くことを意識して。

 最初の数節まではほぼ完ぺきにできる。音もぶれないし、綺麗に響いている……が、それ以降はどうしても乱れてしまう。これはまだ俺が十分楽譜を覚えていないからかもしれないな……。何にせよ努力しなければならない。

「ま、今日はこれぐらいにしとくか」

 おそらくこれ以上やっても進歩はないだろう。それなら別の練習をやって何か突破口を見つけた方がいい。急いでマウスピースをしまってメトロノームのテンポを既定のものへと変更し、ピッピと聞こえる機械音を聞きながら目で楽譜を追っていく。これが意外に楽しかったりするのだ。

 テンポが速めなのでちょっと乗れるし、結構この曲自体が勇ましくて好きなのだ……まぁ、演奏には出れていないが聴いた感じだ。

「……あ」

 今ようやく気付いたが、譜読みが少し間違っていた。音符――本来ならドの音のところがレになっている。これじゃあ違和感があるわけだ。

「いかんいかん」

 消しゴムを使ってごしごしと消し、急いで正しい音階を書き足す。このまま演奏に出ていたらあわや大惨事というところだった。

「そうか、なるほど……譜読みを繰り返すのにはこういうメリットもあるわけか」

 ただ曲の雰囲気を掴むだけではなく、今一度見直すことで以前はわからなかったところや間違っていたところに気付くことができる。これは確かにやみくもに楽器を吹くよりよっぽど有益だ。

「もう一回最初からやろう……ちょっとテンポも落としてみるか」

 既定の半分とはいかないまでも三分の二ほどまで落とし、譜読みを開始する。先ほどまではこのゆっくりのテンポが気に入らなかったが、今はそうでもない。確かに退屈かもしれないが、このテンポで吹けないのに規定で吹けるわけがない。考えればサルでもわかりそうなことだ。

「……やっぱりあいつらにはかなわないなぁ」

 次々と見つかる粗を鉛筆で直していきながら、俺は一人ポツリと呟いた。


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