九十五話目
『はい。やめてください。もっと刻みは跳ねるように、ポン、ポンとスーパーボールがバウンドする感じをイメージしてください』
「うん……」
『どうしましたか? 何かわからないところでもありましたか?』
「というか、一回一回曲を中断して最初からしなくちゃいけないのか? 別に続けてやってもいいと思うんだが」
『いいえ。それでは上達しませんよ。間違ったことを続けても意味がありませんから』
確かにMCが言っていることは正しいと思うのだが、スーも心配しているようにもうそこまで時間がない。中断するよりも最初から最後まで通して演奏した方がいいんじゃ……。
『確かに本番形式で最初から最後まで通すことも重要です。が、今はまだその段階ではありません。ゆっくりのテンポでじっくりと練度を上げていくことこそが必要なのですよ?』
『まぁ、気持ちはわかるけどね。焦るのは当然だし、不安は付きまとうよ。でも、安心しなよ。私たちは伊達に楽器の付喪神じゃないんだから。出来る限りのサポートはするからさ』
二人からそう言われ、俺も口をつぐむ。完全にその意見に納得したわけではないが、とりあえずは信じよう。彼女たちが間違ったことを言ったことは今まで一度もない……今回もおそらく大丈夫だろう。
『ですが、ある程度意見は尊重しましょう。最初からやるのではなくていくつかのセクションに分けて練習するということでどうですか?』
「じゃあ、それで頼む。ありがとな」
『いえいえ。お礼は上達で返してください』
「はいはい」
いつの間にかこいつらとも軽口を交わせるようになった。スーはどちらかというと頼れる近所のお姉さんといった感じだが、MCは鬼教官という言葉がぴったりだ。だが、こうして鞭だけではなく飴をくれるということは指導者として優秀な証拠だ。本当に、俺は二人に出会えてよかった――。




