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第八話

 本をめくる音だけがあたりに響く。今日は入学前最後の休みということもあって図書館で楽器関係の本を読み漁っていた。さすがに無知のまま入部するのは失礼だと考えたからだ……しかし、

「少ないな……」

 ここは島だ。外界から隔絶されたここで有益な情報などそう揃うわけもない。おまけにパソコンも俺は持っていないのだ。いくら調べたくてもそれには限度がある。

 もう諦めて帰るとした時、

「あれ? 樫井、どうしてここに?」

 と、呼びかける声。ふと後ろを見るとそこには俺を誘ってくれた榊原燐の姿が。本をいくつも重ねて両手で抱えている。

「凛か。いや、ちょっと調べ物をな」

「音楽の? マメだね」

「そういう燐はどうしたんだよ。それ、何だ?」

「ああ、これ? 気になる小説があったから借りに来たんだ」

 そう言って一番上の小説をこちらに見せてくる。そこには……アニメチックな女の子のイラストが。

「それラノベか? 俺も気になってるんだよな」

「そうなの? じゃあ早く見て返すよ」

「別にいいよ。ゆっくり見な」

 頷きを返す凛。そして抱えていた本を近くの机に置いて俺の方を覗き込んでくる。

「へぇ、たくさん読んでる……でもあまりいい本はないね」

「そうなんだよ。チューバってマイナーだよな? たぶん」

「そうだね。載っていない音楽の教科書もあるぐらいだし」

 ここ数日チューバということを調べて分かったことが一つ。それは少し……いやかなりマイナーな楽器だということだ。

 トラの持っているスマホで動画を探してもほぼ皆無。おまけにそれに関する本もこの島には無い。吹奏楽や管弦楽の本はあってもチューバだけをピックアップした本など見つからない。

 しかも! 辞書で調べたらなんて出たと思う? 『大ラッパ』だと!? ふざけんじゃねえやい!

「ヘイ、樫井。顔がやばいことになってるよ」

「あ……ああ悪い。ちょっとチューバの不遇さを思うと苛立ってな」

「それはしょうがないよ。チューバはまだ新米だもの。楽器界ではね」

「そうなのか?」

「うん」

 平然とした様子で凛は頷く。そしてえっへんと胸を逸らし、

「チューバが出たのは本当に最近のことでね。セルパンとオフィクレイドっていう楽器がいたんだけど、この二つを淘汰してチューバは今の地位を確立したの。しかもそれだって十九世紀のことだからね?」

「……マジかよ」

「でも、サックスだって歴史は浅いけどメジャーだからさ。たぶん活躍の場の違いかな? チューバはどうしても活躍の場が限られるんだよ」

「それは……どうしてだ?」

「だってあの形だよ? ヘビーだからサックスみたいにスタンディングパフォーマンスもしづらいしね。それにチューバは最低音を担当する楽器で伴奏担当というのもあるかも」

 結構大変……というか聞いてて泣けてきやがった。チューバも苦労してるんだな……。

「他にもいろいろあるよ。楽器の値段が高すぎて学校ではホイホイ買えないからぼろぼろの楽器を使いまわしたり、それに楽器で隠れるから演奏中の写真まともに顔映らないしそれに……」

「やめて!」

 世界はチューバに恨みでもあるのか!? これはほぼいじめだろ!

「樫井……ここでは静かにしないと」

「あ……!」

 見れば司書の人がいらいらと机を指でたたきながらこちらを見ている。その視線に耐えられず俺は席を立つ。

「ごめん、それじゃまた明日」

 凛に別れを告げてからそそくさとその場を後にする。

 いよいよ明日。俺は高校生になる。


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