七十六話目
「ふぁ……ぁ」
欠伸を何とかかみ殺してチラリと横を見ると大半のクラスメイト達は机に伏していた。どうやら古典の老男性教師の授業には催眠誘導効果があるらしく、トラに至ってはすやすやと気持ちよさそうに寝ていた。寝坊してきた癖にいいご身分だ。
千尋に至っては完全に授業を聞いていないようで、ノートの下に楽譜を敷いているように見える。窓際という利点を生かし、透かしているのだ。さすがというか何というか……肝が据わっていらっしゃる。
燐は……真面目にノートを――取っていない。どうやら彼女も退屈らしくドラムをたたくような仕草をばれないようにやっている。
そうか……なるほど。こういった時間も活用する方がいいのか。
ちょっと違うような気もするが気にしない。そっと机の上に右手を置き、運指の練習を開始した。
おそらく唇に関しては長いスパンが必要だろうが、それ以外の譜読みや運指なら短期間の克服も不可能ではないはずだ。
まずはどの音から♭なども含めた状態でゆっくりと上がっていく。さすがに唇を震わせることはできないので、おなかに力を入れたまま息を吐き出していく。幸いにもロングトーンのテンポは一秒に一回なので腕時計を見ていれば容易にできる。
燐たちの一言があってだいぶ気が晴れた。後は自分の弱さと向き合っていくだけである。大丈夫――俺には仲間がいるのだ。もう何も怖くない。
「はい……では樫井くん。教科書読んで……」
「はい!?」
いきなり当てられ飛び上がってしまった。急いで周りに助けを求めるがトラは寝ているし千尋は苦笑いを浮かべている。燐に至ってはサムズアップをしてくる始末だ。全く舌の根の渇かぬうちに……とんだ仲間たちだ。




