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七十二話目

 ――ロングトーンが終わった後、俺は四階のベランダで佇んでいた。もちろんただボケッとしているわけではなく、先ほどの反省点をまとめていた。

 一人でやっていた時は意外に自分の音が聞けてはいたが、聴けてはいなかったようで数々のミスが発覚した。例えば、音の調和。音程が合っていないし、みんなが吹いているのとまるで逆方向に吹いているのではないかというぐらいバラバラだった。

 たぶん、先生が今回こうして参加させたのはそういうことだろう。また少し道が見えてきたのは嬉しいことだが、客観的に自分の下手さがわかってしまい少し泣きそうになった。わかっていたことだが、この部活では最も下手。足手まといだ。

「……とりあえずこんな所かな?」

 基礎練の仕方が書いてあるページに今わかった分だけでもこれからの目標を記した。やはり人間視覚的なものの方が何倍も効果がある。後は一日でも早くこれらを達成できるよう努力するだけだ。

「それじゃ、いこうか。相棒」

 楽器を構え、まずは一吹き。少し唇が渇いていたので舌でちょっとだけ舐めて潤いを持たせる。今度リップクリームでも買っておこう。割れでもしたら大変だ。

「ふぅ……」

 呼吸を整え、視線を前に向けて姿勢を整える。メトロノームの機械的な音を聞きながら、拍に合わせてゆっくりと息を吸い、吐き出した。

 もちろんやるのはロングトーン。先ほどの反省点を頭の中で反芻させながら何度も何度も繰り返していく。上手くいかなければその度微調整を繰り返し、自分の中でのベストを探っていく……が、中々上手くいかない。

 気合は十分。楽器の調子も良好――だがいかんせん実力が足りなかった。頭の中のイメージに体が、音が、まるでついていかないのだ。どれだけ策を講じようと、どれだけ工夫を凝らそうと、まだそれを活かせる段階にまで至っていなかった。砂上の楼閣という例えが今の俺にはまさにぴったりだ。

 結局のところ、今まで俺は自己満足と、自己陶酔に溺れていたのかもしれない。それを認識するため全体でロングトーンをさせたのだとしたら……先生はとんだ慧眼の持ち主だ。


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