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七十一話目

 今日はいつもと違い、別行動することなく音楽室へと俺も向うとすでにそこには先輩たちが控えていた。ちなみに椅子も並べられており、半円形――演奏時と同じ状態だ。

「あ、樫井くん。一年生がこういう雑務を普通はやるから。今度から気を付けてね」

「あ、はい! すみません!」

「……そこまで謝らなくていいけどね」

 手をプラプラと振りながら笑いかけてくれる上村先輩。こちらのオーバーリアクションを見てか、燐がその後ろで必死に笑いをこらえていた。軽く彼女を睨みつけてから自分の席へと移動。ちなみに俺は一番左端の席だ。

 列は三列。前列が木管楽器で中列が金管。最後列がパーカッションだ。俺の列は左からチューバ、トロンボーン、トランペットの順で並んでいる。

 前列は左からサックス、クラリネット、フルートの順番だ。そうこうしているうちに全員が揃い、霜国先輩が前に立つ。いわく彼女はコンサートミストレス――通称コンミスと言って指揮者とはまた別の楽団を仕切る役職だそうだ。その権力は部内間では部長とも並ぶとか。

「はい。それじゃ、B♭(ベー)の音出してください」

「……?」

「樫井。ドの音だよ」

「あ、ああ。ありがとう」

 横からそっと千尋が教えてくれた。そして息を吸い、呼吸を整え――

「……さん、はい」

 先輩の手の動きに合わせて一斉に音を奏でた……が、何というか不快な音だ。

 同じ音を出しているはずなのにバラバラで、締まりがない。俺の音が調和を乱しているのがわかる。終始揺れていて安定していないし、音程もあっていない。唇を変化させて変えようとしてもむしろ悪化するばかりだ。

「……はい」

 さっと手が下ろされ、音が止む。やや俺だけが音を切るのを失敗してしまったが。

「う~ん……まぁ最初だからしょうがないか……」

「とりあえず今日は一緒に吹くことが目的だからさ。ひとまず甘めに見てあげて?」

「……わかりました」

 桶田先輩の言に頷き、霜国先輩は改めて手を振り上げた。それに合わせて俺たちも楽器を構える。

「……さん、はい」

 再び繰り返されるチューニング。やはりここでも俺は合わなかったが、不承不承といった感じで霜国先輩はそれを終了させた。

「少し音が揺れるので気を付けて下さい。それと、全員チューバの音をよく聞いてそれに合わせてあげてください」

『はい!』

 申し訳なさと悔しさで胸がいっぱいになる。他の一年はできていることなのに自分ができていないというのが特に辛い。

「それじゃ、六拍二拍でお願いします!」

『はい!』

 合図と同時に響き渡るバスドラムとスネアドラムの音。全体でのロングトーンの時はこれを使うらしい。しばらくテンポを取った後、唐突に霜国先輩が声を張り上げた。

「一! 二! ……」

 そこで俺たちも自分で拍を数え――

「――ッ!」

 五拍目に合わせて音を吐き出した。


 ――はっきり言って、ロングトーンは地獄だ。いや、練習自体はいつもやっているのと変わらない。他の音と比較できてしまうのが辛い所だ。確かに今日は音も出てるし、暴発や運指も間違っていない……なのに、みんなと吹くと自分の酷さが浮き彫りになっていくようだった。

 さっきも言ったように音程ピッチが少しずつ揺れている上に修正しようとすると音が揺れる。音の切りや出だしも潰れているし、全体的にぐちゃぐちゃだ。挙句の果てにこの酷い演奏にみんなが合わせてくれているのだから、申し訳が立たない。

 だが、一つわかったことがある。練習は無駄ではなかったということだ。

 確かに他と比べると酷い演奏だが、たまにいい音が出るときがある。それに、一人では自己満足に終わっていたかもしれなかったから、こうして比較ができたのはいいことだ。もちろん、下手すぎて泣きたくなるのだが。

 そうしているうちに――演奏が終了した。全員荒い息をついている。

「……っよし。それじゃ、反省」

 霜国先輩が声をかけるとその場の全員が口々に反省を言い合っている。だが、俺だけは何も言えなかった。自分の事すらできていないのに、他人のことなど言えるわけがないのだから――。


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