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七話目

 静かな波の音が耳に届く。真っ青できれいな海――故郷の誇りだ。

「今日はどうするかなぁ……」

 適当に釣竿を垂らしながら口に入れた飴をころころと転がす。安っぽいイチゴ味だが好物だ。

 にしても……すごかったな、昨日の。

 脳裏に浮かぶのは昨日のトラの演奏。堂々として一切の音の曇りがなかった。

「俺もできるかな……」

 まだ入っていないのに気が早いと我ながら思う。だが、そう思わずにはいれないほど昨日の出来事は刺激的だった。

「あれ? 樫井?」

 と、そこで後ろからの呼び声。振り向くとそこには観音崎千尋の姿。中学のジャージを着て重そうな荷物を抱えている。

「千尋か。どうした?」

「お父さんの手伝い。今から漁に行くの」

 彼女の家は漁師の家系だ。だからその跡継ぎである彼女も当然のごとくそれに参加している。

「えらいな。なんか余り物の魚とかあったらくれないか?」

「いいよ。売れない小魚ばかりになっちゃうけど大丈夫?」

「ああ、全然かまわない」

「了解」

 頷き、手に持っていた荷物を抱えなおしてから漁船に向かっていく。そしてしばらくしてから今度は別の籠を持ってきた。中にはぎっしりと魚が詰まっている。

「はい。これ今日の取り分ね」

「……いいのか? こんなにたくさん」

「もちろん。小さすぎて売れないからね。もらってくれた方がうれしいよ」

 その心遣いに感謝しながら籠を受け取り、見た目に違わず相当の重量を持つそれを右手で必死に支える。

「そういえば、レイは部活入るんだよね? 吹部」

「ああ。千尋は何やってるんだっけ?」

「トロンボーン」

「ああ……昨日トラから聞いた中にあったな」

 それを聞いてふっと千尋の頬が緩んだ。

「もうすっかりやる気だね。でも、大丈夫? 吹部って意外と大変だよ? やっぱり音楽は集団で作るものだから人間関係とか……」

「全然いいさ。というか吹部以外に入る気ないから」

「……そっか」

 そこで彼女はニッと無理やり笑顔を作り、

「じゃあいいと思うよ。気に入ってくれると嬉しいな」

「ああ。たぶんそうなると思うよ」

 きっと彼女は以前俺の部活であったことを心配しているのだろう……正直それはまだ俺の心の底に泥のように沈殿している。いわばトラウマだ。

「あはは……ごめんね? 空気悪くしちゃって」

「いいさ。気にしてない」

 それだけ言って前方の釣竿に視線を戻す。やはり今日も魚は釣れない。


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