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六十七話目

 広い空に響き渡るのはチューバの音色。荘厳で、まるで大地が歌っているようだ。

 先生たちの言葉を思い出しながら、丁寧にロングトーンをこなし、徐々に感覚を取り戻していく。

 嗚呼、やはり――楽しい。この力がみなぎっていく感じが、この世にあるすべてを震わせるような音が、たまらなく心地よい。

 特に、楽器と混じり合うような感覚はとても甘美で麻薬のように中毒性があるものだ。自分という存在が楽器の一部になり、楽器もまた俺の一部となる。どこまでも深い微睡に落ちていくような快楽は一度知ったら忘れられない。

ゆっくり、ゆっくりと目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませる。次第に自分の音以外が聞こえなくなっていき、二人だけの世界へと入った。

 目を閉じるだけでこれほどまで違うのかと思うほど音が聞き取れる。音程ピッチがあっていないのが、揺れているのが、音の出だしが微妙に潰れているのが明確に伝わってくる。

 その度に修正を行おうとするが――まぁ、上手くいかない。チューバは無骨な外見とは裏腹にかなりの繊細さを要求するのだ。息の強さや量が違うだけでもまるで音が違ってくる。さながら水鳥のように水面下ではせわしなく動かす必要があるのだ。

 今の俺ではまだ習練が足りないので当然ながらミスを連発してしまう。それこそ何度も何度も何度も――気が遠くなるほど。

 だが、焦らない。一回ずつ気持ちを落ち着かせて万全の態勢で吹いていく。

 そう。これでいいのだ。たくさんミスをして、間違って、足を引っ張って――だけどいつか……上手くなろう。そして、そこまでのミスを帳消しにできるようになってやるんだ。おそらく、それが今俺ができる最良の方法だ。


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