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六十三話目

「レイ、もう昼練行くの?」

「ああ。トラもどうだ?」

「いいよ。俺は時間内で集中して頑張るさ」

「……そっか。それじゃ、行くわ」

 トラたちに手を振って教室を後にした。四限目が結構ギリギリまであったが、今日はあらかじめパンを買っておいた。昼練が終わったら食べることにしよう。今食べてしまうと歯磨きをしなくてはいけないため時間が削られてしまう。それが管楽器のネックだ。

「よし……っと」

 念のため持ってきた楽譜を再確認。あまり褒められたことではないかもしれないが、授業の合間を縫って何とか自分なりに譜読みをしてみた。昼練はそれの確認も兼ねている。

 一応ほかのみんなに確認をとってみたが、音の間違いは特になかったようだ。後は……これをどれだけ吹きこなせるかである。

「おっし……やるか」

 準備室のドアを開け相棒のもとにより、ケースを開けて抱きかかえる。相変わらず重い。中は空洞のはずなのにどうしてこんなに重いのか疑問だ。

 そっと地面に下ろして次は椅子を準備し、演奏の用意を整えた。後はしっかりと腰を下ろしてスタンドを調節するだけだ。ちょうどチューバのマウスピースが口の位置に会うようにし、楽器を構える。

 今日のメニューは時間がないので基礎練は割愛。曲の掴みだけでもやっておきたいのだ。そして吹こうとしたその時――

「――ッ!?」

 こみ上げてきた酸性の液体が俺の喉を焼いた。


 昼飯を食べていなかったのは不幸中の幸いか。ただの胃液が押さえた手の隙間からぽたぽたと落ちる。楽器とスタンドにはかかっていないのでぎりぎりセーフだ。

 身体が燃えるように熱く、視界は全くと言っていいほど定まらず、呼吸も荒い。座っているのがやっとだ。

「……う……ふ……」

 こみ上げてくる胃液を何とかこらえ、呼吸を整える。深く、ゆっくりと――だが、その間も入ってくる空気によって焼けた喉が傷めつけられていく。

「大丈夫……大丈夫だ……」

 そうだ。こんなところで倒れるわけにはいかない。俺は誰よりも下手なんだから部で一番練習して勉強して努力して上手くならなければ。足手まといになるのは嫌だ。お荷物になるのは嫌だ。邪魔になるのは嫌だ。先輩の期待を裏切るのは嫌だ。先生の信頼に報いないのは嫌だ。仲間たちに追いつけないのは嫌だ。上手くなれないのも停滞するのも弱いままなのも諦めるのも止めるのも何もかも嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――ッ!


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