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六十二話目

「ヘイパス!」

「オーライ!」

 今は四限目、体育の授業だ。うちの学校は人数が少ないので、男女混合で行っている。ちなみに今はバスケットボールだ。

「レイ、大丈夫?」

「ああ。なんでだ?」

「……いや、今日妙に疲れているみたいだし、いつもの半分も動いてないからさ」

「気にし過ぎだって。らしくもない」

 だが、疲れを見破られたのは確かだ。トラは意外と観察眼がいい。というか、友人に関してだけ異常に。

「いいって。ほら、来るぞ」

 しぶしぶといった感じで離れていく彼の後姿を見据え、グッと腰を落とす。すでにコートの反対側からは敵チームのドリブラーが攻めてきていた。

 まずトラが仕掛けるも、見事にフェイントに引っ掛かり尻餅をついた。彼はそれを視界の端に収めた後、そのままの勢いでこちらに仕掛けてくる。

「……チッ」

 チラリと横を見てみたが、他の奴らは全員手が離せそうにない。どうやら俺が動くしかなさそうだ。舌打ちをしながらもその場から爆ぜる様に駆けだした。

 コート際を疾走する彼に並走し、コースを狭めていく。もちろんそれは相手もシミュレートしていたらしく身を反転させ抜けようとするが、それこそ布石。急な反転で体制が整っていない隙をいつの間にか戻っていたトラが突き、ボールをかすめ取った。

「よ……し?」

 こちらも反転しようとしたところで――視界がぐにゃりと歪んだ。バランスを崩したまま踏ん張ることも出来ずその場に背中から倒れこむ。と同時、審判の笛が鳴り響いた。

「あた……た」

「大丈夫?」

「ああ。眩暈がな」

 こちらに寄ってきた燐の手を取り立ち上がり、バンバンと地面を踏みしめて感覚を元に戻す。少しはマシになった。

「樫井。休んだ方がいいんじゃない?」

「大丈夫だって。すいません。試合続けてもらって大丈夫です」

 審判に頭を下げて試合続行を促す。ガタイのいい男性教師は難しそうな顔をしていたもののすぐに笛を鳴らした。トラがボールを出して中断してくれたらしく、敵チームからだ。

「……いいの?」

「いいって。ほら、行くぞ」

 正直、燐たちには悪いと思っている。こちらを折角気遣ってくれたというのに、その行為を無下にしてしまっているのだから。だが……ここで休んでしまえば部活のせいだと言われてしまうだろう。そうなるのだけは勘弁だ。

 もし断定されてしまえば朝練や昼練をするのも難しくなってしまう。仮にそのような事態に陥ればまたみんなに置いていかれてしまう。早く追いつきたいし、追い抜きたい――それこそが今の生きがいだ。


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