五十四話目
「……ふぅ……こんなもんか」
チューバの管の抜き差しを終え、パンパンと手を叩いて立ち上がる。後は体を拭いてあげるだけだ。
ちなみにこのチューバ。手入れがものすごく大変なのだ。いや、他の楽器をやったことがないので比較はできないが。
まず、大きいのでその分管がたくさん付いている。つまりそれだけ水が溜まりやすいということだ。
更に長年使われていたせいもあってか全体的にガタがきていて抜き差しも非常に力を使う。
とはいえ、大変だが嫌ではない。大切な演奏の相棒だし、何より綺麗になっていく過程を見るのが俺は好きだ。
「ちょっと拭くか。失礼するよ」
クリーニングクロスを取って丁寧に拭いていくと徐々に輝きを取り戻していく。また、それと同時にこちらの心までも綺麗になっていくようだった。
「うん。もう時間だし今日はこれぐらいで勘弁してくれ」
本来ならもっとやってあげたいのだが、居残り練習という都合上あまり長居するのは宿直の先生たちに悪い。今度時間を作って改めてやろう。
新品同然とはいかないものの、輝きを増したチューバをケースに慎重に戻す。そして最後にポンポンとケースを叩いてその場を後にした。
「じゃあな。また、明日」
つい友人に対するような口ぶりでチューバに話しかけていたことに気づき、今さらながら苦笑した。すでに俺の中で楽器に対する意識が変わりつつあるらしい。これがいいことなのか悪いことなのか……今の俺には皆目見当もつかない。




