五十一話目
「あれ? レイ残るの?」
「ああ。ちょっと掴めそうなんだ」
「そっか。お疲れ」
「おう。じゃあまた明日な」
去っていくトラや先輩たちに別れを告げ、再び楽器の元に向かう。結局あれ以降いい音は出なかったが、今なら何か前に進めそうな気がするのだ。
今までは外でやっていたが、もう人も少ないので中でやることにした。その方が合奏の時の状態に近い。
部屋を開けるとそこには愛しい相棒の姿。最初こそ驚いたが、今ではすっかり慣れたもので愛着も湧いてきた。
「……っし。いくか」
キチンと楽器を構えて基礎練を開始する。まだ曲の練習はしない。何事も基礎こそが大事なのだ。
まずはロングトーン。これは基本中の基本とも言うべき練習で、欠かしてはならないものだ。
テンポというものをまずはメトロノームで設定――今日は六十。これはほぼ一秒に一回メトロノームが動く仕組みだ。
そして六拍二拍のリズムで行うのだが、端的に言うと六拍で吐いて二拍で吸うという感じだ。これが意外とキツイし難しい。
音は伸ばせても揺れていたり、音程が合っていなかったりする。おまけにまだ指使いも曖昧でたまに間違えてしまった。
……だが、今日はいつもより比較的マシだ。というのは……
「お前めちゃくちゃ調子いいな。あれか? 何かいいことでもあったのか?」
そう。楽器の調子がすこぶるいいのである。俺の拙い演奏をしっかりとカバーしてくれていて、だからこそ最初のような音も出せたのだ。
楽器には魂が宿る――ツクモガミのようなものだと先生たちは口々にそう言った。事実この子たちは本当に生きているようである。
撫でたり拭いてあげれば上機嫌になっていい音を出してくれるし、反対にぶつけたり雑に扱えばすれば不機嫌になる。名前を付けたのはある意味で正解だったかもしれない。この子と親しみを持てるようになったのだから。
ちなみに今やっているロングトーン。これは下のドの音から順に上がっていき、上のドから折り返していく。単純だが、だからこそ難しい。
「……頼むぜ、相棒」
愛しげに撫でた相棒は……依然として悠然とそびえていた。まるで「人に頼らないで自分で頑張れ」とでも言っているように――。




