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五十話目

「今日居残り練習お願いできますか?」

「いいよ」

即答だった。自主練をこなし、ようやく時間になって先生が来た時に尋ねたのだが、意外にもすんなり了承してもらえた。

「その代わり時間内の練習もしっかりやること。それと翌日に疲れを残さないように。部活を言い訳にしたら許さないから」

「もちろんです。それは承知の上で聞いたんですから」

「よし! それじゃあ頑張っていこう! ほら、行くよ」

「はい!」

吹奏楽部に入って気づいたことが一つ。それは意外にもノリが体育会系だということだ。ひと昔前のスポ根に近い。

全員がいるところに向かい、そこで先生は咳払いをした。

「とりあえず今日は昨日と同じメニュー。午前中だけの練習だから集中してやるように」

『はい!』

威勢のいい声をあげ、それぞれ筋トレをするため場所を取る。無論俺は能代先輩とペアを組むことになっていた。

「あの……大丈夫? 足」

「あ、はい。全然平気です」

今日はどうやら平常運行でいくらしい。昨日がハードモードだっただけあって少し違和感を感じた。

「それじゃ、寝転がって足上げて」

「はいっす」

「じゃあいくよ。はい、一!」

そこから始まったのは昨日より更にキツイ筋トレ。単純な振り子運動ではなく三連続同じ方向からの逆方向など地味にいやらしいやり方だった。いや、たぶん実力は上がると思うが。


次はマウスピース練習。昨日学んだことを少しでも活かすべく脳内で思い浮かべながら行っていく。

大事なのはイメージだ。音の強さ、長さ、響き――それらは全て想像することから始まる。

俺がイメージするのは短いが力強く深く響く音。まるで……そう。大砲のような感じだ。

マウスピースは砲身。出る音は砲弾……こういった想像を働かせるのは結構大事なことらしい。

しばらくイメージを固めたところで楽器にマウスピースを装着。手始めに軽く吹くと少し間延びしたような音。これではダメだ。

椅子にしっかりと座り、姿勢を正してスタンドを立てる。足はやや開き気味で、だが決して浮かないようにしっかりと大地を踏みしめて。

腹……いや、正確に言うならば臍の下にある丹田に意識を集中させる。やや迷信臭いがここには気が集まるらしいのだ。

しばらく腹式呼吸を繰り返し楽器とコミュニケーションを図ってからマウスピースに口をつけた。ひんやりと冷たい感触……火照った体を冷やすには持ってこいだ。

(いこうぜ……相棒!)

カッと目を見開き一気に楽器に息を吹き込む。すると……

「――ッ!」

今までで最高の音が出た。音はどこまでも深く、豊かで安らぎを覚える。大音量なのにがなりたてるようなものではなく、それは包み込むような優しさに満ちていた。

「……っしゃあ!」

気づけば一人ガッツポーズをしていた。今のは確実に練習の成果と呼べるだろう。偶然だとしても、それが出せるだけの実力がついてきた証拠だ。

「……悪い。はしゃぎすぎたな。んじゃ、もう一回いこうぜ」

愛器をそっと撫で、再び練習に取り掛かる。

おそらくさっきのは完全にマグレだろう。でも、構わない。それがマグレではなくなるようにするのが今後の課題なのだから。

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