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五話目

「ただいま~」

「おかえり。ご飯できてるよ」

 みんなと別れて家へと着いた俺を迎えてくれたのは姉さんだった。今も忙しそうにパタパタと夕食の準備をしている。

「ありがとう。先に風呂入ってくるよ」

「じゃあ着替え出しておくから」

 俺の家はあまり裕福とは言えない。両親を幼いころに無くしたせいで姉さんが俺の面倒を見てくれている。

 姉さんは俺のためにすべてを犠牲にしてくれた。部活にも入らず家事全般を受け持ってそのくせ俺には部活を許してくれている。一度は俺も部活に入らないで姉さんを手伝うといったが、

「何言ってるの。レイは何も心配しなくていいんだよ」

 と断られてしまった。感謝がないとは……いえない。

 風呂場に着き服を脱いでいく。姉さんの手を煩わせないようにきちんと洗濯籠にたたきこんでから風呂場に入った。そしてまずは熱いシャワーを全身に浴びる。その熱さで徐々に頭が覚醒していくようだった。

「さて……と」

 一つため息をついてから湯船につかると、まるで今日の体の疲れが全て取れていくようだ。

「楽しかったなぁ……今日の」

 中学までは剣道部に入っていたが今ではそれも後悔している。というのも――

「レイ。着替え置いておくね」

「あ……ああ。ありがとう」

 そこで俺の思考が遮られてしまう。適当に返事を返すと姉さんらしき影は台所へと戻っていった。

「まぁ……いいか」

 正直言ってあの時のことは思い出したくない。あんな思いはもう……たくさんだ。

 湯船から上がり体と頭を洗う。そして再び湯船に少し使ってから俺は風呂場を後にした。何かが胸につかえているのに気付かないふりをしながら――。

「出たよ、姉さん」

「うん。それじゃご飯にしようか」

 ちゃぶ台の上に載っているのはご飯とみそ汁。それと漬物だけ。

「ごめんね。今日のご飯少ないでしょ?」

「大丈夫だよ。俺姉さんのご飯全部好きだからさ」

「ありがとう。じゃ、いただきます」

「いただきます」

 まず俺が手を伸ばしたのは味噌汁の椀。何も入っていないそれをズズッとすする。

「どうだった? 今日の部活の見学」

「楽しかったよ。もうそこに入るさ」

「そう……よかった」

「姉さんの仕事の方はどうなの?」

 姉さんは高校を卒業してからすぐ地元の役場に勤めることになった。お給料はそこまで高くないが安定した収入源である。

「大変。もう入って一年になるけどそれでもまだ慣れないなぁ」

「いつもありがとう、姉さん。俺がいつか楽させてやるからそれまで待ってて」

「うん。待ってるね」

 ニコッと笑ってから姉さんは漬物をおかずにご飯を口に放り込む。そしてずっとニコニコとした顔でこちらを見ている。

 いつか姉さんに恩返しすること……それこそが俺の夢だ。親孝行したいときに親はなしとはよく言ったもので、両親は俺が成人する前に死んでしまった。だからせめて姉さんには俺の生涯をかけてでも幸せにしようと決めているのだ。

「そういえばレイ。明日はどうするの?」

「明日……は釣りにでも行こうかな? トラを誘って」

「部活は?」

「ああ、明日からは来ちゃダメって言われたんだ……俺だけじゃないよ? 何でも準備があるんだって」

「へぇ……そうなの」

 不思議そうに首を傾げる姉さん。でも、それも当然か。

「大丈夫、ちゃんと楽器も吹けたんだよ。チューバっていう楽器だけどね?」

「チューバ? 何、それ?」

 まあ、そうなるな。俺だって最初は知らなかったし。

「何というか……巨大な大砲みたいな楽器かな? いつか見せるよ」

「うん、楽しみにしてるね」

「とりあえず明日は釣りにでも行くよ。釣った魚は持ってくるからさ」

「ありがとう」

 それだけ言ってから食事を再開した。視界の端に移るのは両親の遺影。俺たちを優しげに見つめている。

 親父……母さん。俺がんばるよ。

 浮き出そうになった涙をこらえながら飯をかっ食らっていく。気のせいか、ご飯が少し塩辛かった。


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