四十五話目
マウスピース練習は金管楽器をやる上で最も重要なことの一つらしい。これが満足に出来なければ、到底上手くなることなど叶わない。
見ている分には楽そうに見えるかもしれないが、実は結構大変なのだ。さながら水鳥のように、見えない部分で必死に唇を動かしている。
「お疲れ。やってるね」
「先生。はい、難しいですけどなんとか……」
「ふぅむ……ちょっと吹いてみて」
頷きを返し唇を震わす。だが、それを見て先生は首を捻った。
「そうだね……まず基本がダメかな? 姿勢が悪いよ」
そう言ってこちらの腰に手をかけ、グイッと前に押し出した。
「一応本を見てるから形はできてるけどまだダメだね。それにお腹に息が入っていない。肺にはあまり入れないように」
「そうなんですか?」
「うん。まぁ、肺と腹に入れて息の量を増やす人もいるけど、まずは腹式呼吸を意識して。それが第一だから」
不意に先生は大きく息を吐いたかと思うと今度は凄まじい勢いで息を吸った。するとそれに従って腹がまるで風船のように膨らんだ。
「ね? こんな感じで入るようにまずは練習しよう。マウスピースと並行してね?」
「はい! やってみます」
そこから先生はつきっきりで俺の練習を見てくれた。その度に間違っているところは丁寧に教えてくれて、その甲斐あってか多少音の鳴りが良くなった。
時折厳しいことも言われたが、何も言われないよりましだ。正しい方向に導いてくれる人がいる……ただそれだけでこんなに心強いとは思わなかった。




