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三十七話目

「……今から何が始まるんだろうね?」

 これはトラの質問だ。今俺たち新入生は体育館に集められており、当然そこに上級生たちの姿はない。加えて入って整列してからすぐ照明を落とされたので辺りは真っ暗で何も見えない。先輩方の準備のためなのだろうが、新入生たちからはたまったものではない。

「……とりあえず今何時かだけでもわかるか?」

「えっと……まだ九時だよ」

 ということはまだ十分程度しかたっていないということだ。それだけ準備が大掛かりなのか、それともただしてなかっただけで慌てて今やっているのか……。

『え~テステス。聞こえてますか~?』

 と、そこで体育館に備え付けられたスピーカーから間の抜けた声が聞こえた。というかこの声って……

『初めまして。吹奏楽部部長兼司会進行を任されました桶田です。よろしくお願いします』

 やっぱり桶田先輩だ。声のトーンが似ていたからもしかしたらと思ったんだ。

『え~今日は新入生歓迎のレクリエーションをしたいと思っていますので、どうぞ楽しんでいってくださいね~』

 おそらく子供番組のお姉さんを真似しているのだろう。どこかそれらしい雰囲気を纏っている……が、そこで咳払いを一つ。

『それでは! まずこのレクリエーションの趣旨を説明させていただきます! ここでは部活ごとに出し物をして新入生の皆さんを楽しませると同時に、自分たちの部活のアピールをします』

 なるほど……親睦を深めると同時に勧誘の意図もあったのか。なかなかよく考えられている。

『ちなみに私のオススメはやはり吹奏……あっ! ちょっ……先生たちやめ……っ!』

 そこで放送がいきなり途切れた……おそらく自分の部活の宣伝をしようとした先輩を先生のうちの誰かがつまみ出したのだろう。大体の行動パターンが少しずつ掴めてきた。

『あ~今少しありがたいお言葉をいただいてきましたが……それでは気を取り直して! まずは女子テニス部お願いします!』

 直後一気に前方がスポットライトで照らされる……するとそこには数名の女子たちの姿が。全員ラケットを持って立っている。なんとか光を当てられてわかったが彼女たちはずっとそこにいたらしい。日焼けして真っ黒になっているので、完全に闇にまぎれていた。

「気を付け! 礼!」

 部長らしき人の号令が響き、一列に並んでいた少女たちが一斉に頭を下げた。それから数秒後、さっとその場に散らばりラリーを始めた。おそらく鍛錬を続けた成果だろう。一つも客席に流れ弾が飛ぶことはなかった。

 しかも驚くべきはラリーをしている最中に部の紹介をしていたところである。縦横無尽に動き回っているはずなのに息を切らしておらず、マイクを使っていないのによく声を響かせていた。恐るべし、テニス部女子。

「――以上で! 私たちの出し物を終わります! 気を付け! 礼!」

 徹頭徹尾凛とした姿勢で終わった彼女たちに新入生たちからは称賛の拍手が上がる。事実それだけの出し物だった。よく他校など……ドラマなどであるうすら寒い奴でなかっただけで十分だ。

『ありがとうございました。次は野球部です。よろしくお願いします』

 桶田先輩の声があたりに響く。もしかしたらテニス部のレクリエーションの際にこっぴどく叱られたのかもしれないが、少し声に元気がなかった。

 そんなことを考えている間にも、次の部が準備に取りかかっていく。だが俺としては内心早く吹奏楽部の演奏が聴きたいとずっと思っていた。


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