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三十話目
「さて……っと」
部活も終わりを迎え、家路についた俺は一人暗い道を歩いていた。頭に浮かぶのはチューバのことばかり。あの時吹いた感覚がまだ残っている。体全体が震え、目の前がパァッと開けるような――あれはなかなか味わえるものではないだろう。
しかも、吹いた後に心に蟠っていたものが全て消え去っていたのだ。もちろん先生の言葉で振り切れていたのもあるだろうが、決定打はあの音だろう。怒りをすべて乗せた魂のこもった響き……あれを演奏中ずっと持続できれば観客を魅了することも可能ではないだろうか?
「まぁ……いいか。とりあえずは」
すべきことは決まった。まずは情報収集。そして次にうまくなることだ。一日でも早くみんなに肩を並べられるようにならなくてはならない。明日はいの一番に学校に行って音楽室の資料を読み漁ろう。少なくとも島の図書館よりはあるはずだし、あそこにはMCもいる。実践にはうってつけだ。
「あ……しまった。姉さんに言わなくちゃ」
二人暮らしの上に弁当まで作ってもらっているのだ。あまり負担をかけるのも少し……忍びない。
「まぁ……何とかなるか」
少しばかり足を急がせて家に向かう。勉強がうんぬんよりさらに高い壁があったものだと今更ながら少し辟易した。




