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二十七話目

「いって……」

 打たれた頬がじんじんと痛む。幸いにも血は出ていないようだったが、ずしんと響く一撃だった。

「トラウマだぁ!? 甘えんな!」

「ぐっ……」

 胸ぐらを掴まれ壁に押し付けられた。苦しげに身をよじるが、それでも解放されることはない。

「お前はそれを克服したいとか言いながら何もできていないだろ! それを何だ! 今も引きずっているとか……ただの逃げじゃねえか!」

「じゃあ……どうすればいいんですか!」

 気づけば俺も先生に掴みかかっていた。頭に血が上っているとはいえ、こんなことは初めてである。

「怖いんですよ! 前に進むのが! 一歩踏み出すのが! また誰かに馬鹿にされるんじゃないかって! 夢を失うんじゃないかって!」

「だからそれが甘いってんだよ!」

 今度は逆の頬を殴られた。目の前がちかちかする。

「人の目なんか気にすんな! お前はお前の! お前が信じる道をただ進めばいいんだ!」

「でもそれが間違った道だったら……」

「その時は俺たちがいんだろうが!」

 がっと肩を掴まれ、力強く見据えられる。

「俺たちは……少なくとも吹奏楽部にいる奴らは絶対にお前の夢を馬鹿にしない! 笑わない! 俺たちにはその辛さがわかるから! 夢を追っている奴には馬鹿にされたときの辛さがわかるから!」

「けど……けど……」

「お前が道に迷ったら俺たちが道を示してやる! 止まりそうになったら後ろから背中を押してやる! それじゃだめなのか!?」

「……いえ……そんなこと……ない……です」

 気づけば俺の目からはぼろぼろと涙が流れていた。今まで、こんなに真正面からぶつかってくれる人はどこにもいなかった。

「今までお前が経験してきたことはすごくつらいことだと思う。でも、それはもう過去だ。いつまでも囚われていてはいけない。大事なのは今と! これからだろうが!」

「……いいんですか?」

「何がだ?」

「俺みたいなのが……この部活に入って……」

「馬鹿たれ」

 ぐしゃぐしゃとこちらの頭を撫で、

「お前、今泣いてんじゃねえか。過去につらいことがあったのに、腐ってない……それだけの熱いハートを持ってんだろ? じゃあ、大歓迎だ」

「……はい……ありがとう……ございます」

「ちなみにな。これだけは言っておくぞ。お前は絶対に先輩みたいにはなれない。これは悪い意味じゃなくて、良い意味でだ。音楽は自由だって言っただろ? だから、誰かと一緒である必要もないし、なれないんだよ。逆にいいところはどんどん奪って、悪いところは反面教師にしたらいい。要は……お前しだいだ」

 胸が熱くなるなんていつ以来だろう。まるで今まで眠っていた何かが目を覚ましているかのように心臓が早い。

「来いよ……ここからがお前の人生だ」

 そっと差し出される手を掴むと――とても優しく温かい温度が感じられた。

 嗚呼……ようやく……自由になれた。


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