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二十五話目

「さて……っと。何か質問あるかな?」

 先生の言葉を待っていたかのように手を上げる人物が一人。燐だ。

「いくつか質問があるのですがいいですか?」

「どうぞ。ばっちこいさ」

「では……部員はこれだけなんですか? 遠征とか、余所に修行に出ている人は?」

「いないよ。ここにいるメンバーがフルさ」

 先生の言葉を聞いて燐は難しそうな顔をしている。やはり彼女はこの部活の体制というものがあまり好きでないのかもしれない。

「次私いいですか?」

「うん。いいよ」

 次に手を上げたのは千尋だ。彼女もこの部活に疑問を持っているはずだが……?

「吹奏楽のコンクールには出ているんですよね?」

「うん。それが?」

「戦績を教えてもらえませんか? 先輩たちの代がどこまで行ったのかを」

「なるほどね……銀賞だよ。県のね」

「銀賞!?」

 思わず声を荒げてしまった……でも、それってすごい事なんじゃ……?

「あ~……レイ。勘違いしているみたいだから教えておくね。吹奏楽は金賞、銀賞、銅賞がどの団体にも絶対に与えられるんだよ。金賞を取っても九州大会に進めるのはその中の数組だったりするしね」

「そ……そうだったのか?」

 トラの意外にも丁寧な解説。銀賞と聞いたからすごいように感じたが、彼らからしたらそうでもないようだ。

「しかも、ここ長崎は地区大会がないから即県大会だしね。だから実質県大会クラスの実力って決めつけるのも早いよ」

 やや棘のある言い方をする燐。音楽をやりたいから入るしかないが、あくまで否定的なスタンスは変えないようだ。

「フ……フフ……」

 突如として先生が妖しい笑いをしだした。そしてまるで映画の悪役であるかのように高笑いし始める。……気でも触れたのだろうか?

「素晴らしい! 君たちの向上心はよくわかった!」

 先生は心底嬉しそうに燐と千尋の腕を掴んでブンブンと振り回している……が、途端に厳しい目つきになり、

「でも、果たして成績だけが全てだろうか?」

「そう……じゃないんですか?」

 だが、そこで先生は首を振り、

「記録よりも記憶に残す演奏……これが俺の理想だ。もちろん、全国を目指そうという志は素晴らしい。でも、これもわかってほしいんだ」

「……」

 燐も千尋もただ黙って先生の話を聞いている。そうさせるだけの情熱がその言葉には溢れていた。

「全国を目指すのは確かに吹奏楽部員の夢だろう。でも、それだけが音楽じゃないんだ……テレビなんかでドキュメンタリーとか見たことある?」

「はい……一応」

「あの子たちを見ていつも思うのが、音楽を楽しんでいるのかな……ってことなんだよ。そりゃあ、楽しんでいる子もいるけど、強迫観念に駆られているような子もいる。それは見ていてとても辛いんだよね。中には音楽自体が嫌いになって辞めちゃう子もいるしさ……」

 そういう先生の瞳は愁いを帯びている……かつて何かあったのかもしれない。

「音楽に終わりなんてないんだよ……全国に行ったってそこでやめちゃう子もたくさんいる。そればっかりを目指してきたから、その後がわからなくなってね……」

「じゃあ……何を目標にするんです?」

「決まっているじゃないか。夢を与えることだよ」

「夢?」

 信じられないというように燐と千尋は先生を見ている……が、トラは何か思い当たる節があるのか真面目な顔になっていた。

「憧れと言ってもいい。こう吹きたい……この人みたいになりたい……そう思わせるような演奏ができればベストじゃないかな? 君たちだってそんな経験あるんじゃないかな? だから、うまくなろうと足掻いてきた」

 それを聞いてハッと一年生たちの目が見開かれる。まるで今まで無くしていた何かを見つけたかのようだ。

「言ってしまえば俺たちはエンターテイナーだ。人に感動を与え、同時に自分たちも楽しまなければならない。ただ結果だけを追い求めるんじゃない。その先にある未来を目指すんだよ。自分たちの演奏を聴いてくれた誰かが楽器を吹くきっかけになったり、その人の人生の分岐点になるような……ね」

 それだけ言ってカラッと笑い、手を打ちあわせた。

「ま、まだ入部まで時間はあるからね。たっぷり考えてよ」

 見れば他の一年生たちは何か考え込んでいるのか全員真剣な顔をしていた。はたして……俺は彼らのように真剣になることができるのだろうか?


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