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二十三話目

「それじゃ、次は私かな?」

「あれ……あの楽器……?」

 次に前に立った先輩が持っていたのは紛れもなくトランペットだった。トラの持ってい者とは少し細部が違うが、やはりそうである。

「トランペット担当の口咲くちざきです。よろしく」

 手早くあいさつを済ませ、楽器をピシッと構える。

「トランペットはかなりメジャーだよね。吹奏楽の華と言っても過言じゃないし」

「フルートだって華だよ!」

「はいはい。ちょっと静かにしてようか」

 批判を投げかけようとする桶田先輩の口をふさぐ能代先輩。どうやら少しこの部活の人間関係が見えてきたような気がする。

「まぁ、トランペットがほかの楽器と違うのは音の鋭さ……かな?」

 そう言ってトランペットから音を奏でる。まるで切れ味の鋭い刀のような音だ。一直線にこちらまで届いてくる。

「トランペットは本当に吹奏楽では花形なんだよ。一番音が響きやすい楽器の一つだし、目立つしね」

 確かに先輩の言うとおりだ。ここで聞いているだけでも十分響いてきたのだから、大きいホールに行けばどれほど響くことだろうか。

「ちなみにこの楽器は今まで吹いてきた楽器とは違う金管だからね。音の質も全然違ったでしょ? それにこれは金管全般に言えることだけど、パワーがあるの」

 うんうんと頷く千尋とトラ。やはり金管を担当している二人には何か感じることがあったのかもしれない。

「単純な音のパワーで言ったらチューバなんかには劣るけど、音の鋭さとスピードならだれにも負けないと思ってるよ。トランペットはすごいんだから」

 トラは首がもげるのではないかというほど頭を振っている。自分の楽器を褒められるというのはそれだけ嬉しいことらしい。……まだ俺にはその気持ちは分からないが。

「とりあえず百聞は一見にしかずって言うしね。ちょっと失礼」

 奏でるは勇壮なマーチ。思わず動き出しそうになるのをぐっとこらえる。本当に気を抜けば体でリズムを刻んでしまいそうなほど、音楽に引きこまれた。

「とある演奏家いわく……真のマーチとは今まで杖をついていた老人が背筋を伸ばして元気よく行進することを言う……ってね」

 いたずらっぽく笑って演奏を終了する。今までの演奏も素晴らしかったが、やはり金管と木管というだけでこれだけ違いがあるとは驚きだ。

 木管の深く生い茂った木々のさざめきのような旋律も、金管の太陽のような輝かしい演奏もどちらも捨てがたい。同じ吹奏楽器でもここまで差があると知れただけでも今日は大収穫だ。

「ま、かなり奥が深い楽器だけどいい子たちだよ。よかったらもっと好きになってあげてね」

 口咲先輩の演奏も終わり、とうとう最後の一人になった。だが……不思議なことにその人は楽器を持ってすらいなかった――。


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