二十二話目
「じゃあ、次は……」
「私いいですか?」
先生が次の生徒を指名しようとしたところで一人の女生徒が立ち上がる。その手にはサックスが握られていた。
「木管は木管でまとめて教えた方がいいと思うので」
「そうだね。じゃあ、お願い」
先生に促されてその先輩は俺たちの前に立つ。そして丁寧にお辞儀しこちらに笑顔を向けた。
「はじめまして。サックス担当の霜国って言います。よろしくね」
にこやかな笑みをこちらに向けたかと思うと、今度は艶っぽい視線を自分の楽器に向けた。
「ご存じのとおり、これがサックス。他にもたくさん種類があるんだけどこれはアルトサックス。吹奏楽ではメジャーだね」
うんうんとほかのみんなが頷いているから情報に間違いはないだろう。だが俺が知っているのはどっちかというと……。
「たぶんそこの子はジャズとかをイメージしたんじゃないかな? 活躍の場としては」
図星をつかれ、俺は苦笑する。
彼女の言うとおり、俺がこの楽器を目にするのはジャズのようなジャンルの音楽だ。吹奏楽でも見たことがあるが、どうにもそちらの印象の方が強い。
「まぁ、そういう人も多いしね。でも、吹奏楽だと結構重要なポストなんだよ? 歴史は相当浅いけどね」
どこか自嘲気味に告げたかと思うとそっと楽器の吹き口に口をつける。そして奏でるはどこかムーディな音楽。これぞサックスといったように堂々と吹いている。
だが、驚くべきはそこではない。先ほどまでの二人と、演奏スタイルがまるで違うのだ。
前の二人が静を体現しているとすれば、まさしくこちらは動。体をフルに動かし、まるでダンスを踊っているような激しさだ。しかもそれでいて音は全くぶれていない。
そしてリズムが加速し、先輩の動きも激しさを増していく。おそらく彼女にとって楽器とは本来の意味を持っていないだろう。それが自分の体の一部であるように自在に操っているのだ。
更に先輩はこちらの反応を終始伺っている。反応が薄ければアプローチの仕方を変え、濃厚であれば更にその表現に磨きをかけていく。おそらく柔軟さで言ったら他の二人よりも優れているだろう。
いよいよ曲もクライマックスに至ったのか、楽器を上に掲げ――終幕した。浮き出た汗をぬぐいながらにこやかに笑みを浮かべて再び自分のいた場所に戻っていく。
改めて実感したが、この部活はすごい。まるで少数精鋭を体現したようだ。
ただ一つ気にかかるのは……はたして、何の経験も実績もない俺が入っていいのだろうか? ということだ。




