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二十話目

「先生。今日部活見学お願いできますか?」

 昨日の反省を生かして俺たち四人は朝いちばんから先生のところにお願いに行った。もしかしたら拒否されるかと思ったのだが、意外にも許可がもらえたことに全員目を丸くしている。

「やる気があるのはいいね。ぜひ来てよ。ちょっと今日は楽器の説明でもしようかな?」

 軽く言う先生からは昨日のような雰囲気は感じない。だがあの怒鳴り声を聞いた後だ。少し引っかかるものがある。

「ま、今日放課後おいでよ。みんなには俺から伝えておくから」

 それだけ言って飄々とした様子で去っていく。やはり先生というより近所の兄ちゃんといった感じだ。


「じゃ、行くか?」

「だね」

「うん」

「行こう」

 俺の問いにトラ、燐、千尋の順で答える。そしてまた昨日のように一列になって音楽室へと向かっていった。すでに楽器の音色が響き渡り俺の耳に届く。どうやら昨日説明を受けた音出しを行っているらしい。

「さて……っと」

 四階についたところで拳を打ちあわせ気合を入れなおす。そして音楽室へ一人また一人と足を踏み入れていく。

「お、来たね」

 見ればそこには小林先生と先輩たちの姿。みんなにこやかにこちらに手を振ってくれている。

「それじゃ、楽器の説明会を始めようか。ま、説明って言っても時間の都合上一、二分だけどね」

「じゃあまずは私から」

 最初に立ちあがったのは桶田先輩。以前素晴らしい演奏を聞かせてくれた人だ。

「私が担当しているのはフルート。まぁ、吹奏楽って言ったら知らない人はなかなかいないよね?」

 そしてフルートを前にかざし、

「この楽器は主にメロディーを担当していて、楽団の中のお姫様みたいな感じかな? 気まぐれだけど綺麗で……まるで私のようにねっ!」

「はいはい。わかったから説明続けて」

 先生の対応が不満だったのか、先輩は頬を膨らませる。だが次の瞬間には咳払いして俺たちのほうに向きなおり、

「えっと……とりあえずこの楽器無くしてメロディーは成り立たないってことだよ。流れるような旋律を奏でられる素晴らしい楽器なんだよ!」

 よっぽどフルートが好きなのだろう。目がキラキラと輝いていた。そして愛おしげに自分の楽器に視線を移し、

「確かにメロディーを吹く楽器はたくさんあるけど、この子はすごいよ? 速いパッセージを吹けるだけじゃなくていろんな音色が出せるから曲によってコロコロ表情を変えるの。本当に表情豊かで……まるでわた……」

「はいはい。わかったから」

「先生! ちょっと黙っててもらえますか!?」

 直後上がる笑い声。やはりトラたちの言うことは間違っていなかったらしい。昨日怒鳴っていたのは先生も先輩たちも一生懸命だっただけで、普段はこんなフランクな感じなのだろう。

「じゃ、しめに……」

 そしてゆっくりとフルートを口に付け、流麗な音楽を奏でていく。

「うわぁ……」

 以前聞いた時とは全く違うテイストの音色。どうやら多彩な雰囲気を持つ楽器というのは本当のようだ。今は静かでゆったりとした音楽を響かせている。

 そして曲も佳境に入ったのか、先輩の指使いが更になめらかなものになっていく。人間では出来ないのではないかと思えるほどの早いパッセージも難なくこなしていくさまは本当に息をのむほどだった。

 最後に強く息を吹き込み、曲が終了した。そしてこちらにニコリと微笑み口を開く。

「ご清聴ありがとう。よければフルートのこと、もっと好きになってもらえると嬉しいな」

 そこで終わるかと思った……が、そこで先輩はいたずらっぽい笑みを浮かべ、

「私のことも好きになってくれるともっと嬉しいな!」

 堂々と胸を張って告げると同時、俺たちの心がシンクロした。

 こういうところがなければいい演奏家なのに……っと。


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