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十八話目

 音楽の授業が終わった後、俺たちは早めの下校を迎えることになった。どうやら上級生たちがこちらの歓迎会を含めたレクリエーションを考えているらしい。

「みんな部活行く? 見学」

 トラの提案に俺たちは即座に頷いた。もともとそのつもりだったので好都合だ。

「でも大丈夫かな? レクリエーションの準備もあるんじゃない?」

「確かに……でもいいんじゃない? 今は仮入部期間だし」

 燐の言い分になるほど、と千尋も納得した様子を見せる。そしてすぐさま机の上に散らばっていた教科書を鞄の中にたたきこんだ。

「じゃあ行こうぜ」

「だね。まずは先生のとこに行こう」

 男子二人が教室を出るとその後をついて女子たちも後をついてくる。まるでどこかのゲームのように一列になって歩くさまはどこか滑稽だった。

「とりあえず音楽室行ってみる? そっちにいるんじゃない?」

「かもね。まずは先にそっちに行こう」

 燐の提案に賛成の意を示し、音楽室へと足を向かわせる。すでに練習が始まっているのか、楽器の音が聞こえてきた。そして四階までついたところで――先頭を歩いていた虎の足がピタリと止まった。

「トラ。どうしたの?」

「しっ!」

 千尋の言葉を途中で遮ってトラは柱の陰から何かを覗き見ている。そして俺たちもそれに倣ってみるのだが、いかんせん身長差があるのでトーテムポールのようになってしまった。

「あれは……?」

「今たぶん合奏中だね」

「え? でもさっきは適当に音を吹いていたような……」

「あれは音だしって言って楽器のウォーミングアップみたいなもの。たぶん今からチューニングが始まるんだよ」

「チューニング?」

 燐と千尋が同時に頷いた。トラだけは前方の様子を注意深くうかがっている。おそらく見張りの役を受け持ってくれているのだろう。

「チューニングっていうのは、決められた基準の音に自分の音を合わせること。ピッチ――音程があっていないと音楽は途端に崩れちゃうんだよ」

「へぇ……音出しは?」

「音出しは基本自由かな? まずは音をガンガンにかき鳴らす人もいるし、優しく吹いて徐々に鳴らしていく人もいるけど、とにかく楽器を温めることが重要」

 さすがといった調子で千尋が答えてくれた。管楽器であるトロンボーンを経験していた彼女にとってこの程度は基礎知識なのだろう。

「パーカッションはその間ちょっと暇だけどね。楽器によるけど」

 どこか皮肉っぽく燐が肩をすくめてみせる。確かに打楽器である彼女にはこれらのことは縁が遠いだろう。

「この二つは特に大事。これやんないと話にならない」

「楽器ってただ吹いてるだけかと思ってたよ。俺」

「全然違うよ。演奏する前にはもっとたくさんすることがあるんだから」

「ま、それは後々覚えればいいよ」

 話が長くなりそうな気配を察してか、凛が割って入る。その様子を見て千尋は頬を膨らませる仕草をしてみせた。一方トラはというと――未だに柱の陰から身をのぞかせているだけだった。

「……やっぱり帰ろうか」

「え?」

 思わず口からそんな言葉が漏れ出る。他の二人も同様で目を丸くして信じられないというような表情をしていた。

「だって今絶対に入れない空気だよ……多分これから合奏地獄だろうし」

「そっか……じゃあしょうがないね」

「だね。帰ろっか」

「えっ……ちょっ……」

 三人はそれだけ言ってすぐさま踵を返して階段を下りて行った。当然俺も追うが――

「見ていかないのか?」

「うん。あの空気だといれてもらえないのはわかったし何より……」

「何より?」

 俺が聞き返した直後だ。おそらく小林先生と思われる人物の怒鳴り声が聞こえたのは。

「これだから」

「えっ……どういうことだよ? 先生怒ってるのか?」

「違うと思うよ。真面目だからこそ、ああやって厳しくやっているんだと思うな」

 あっさりと言い張った燐。他の二人もうんうんと頷きあっている。

「ビビった?」

「……まさか」

 実はビビった。おもわず泣き出しそうになるほどに。


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