百六十八話目
『え~本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございました』
長かったようで短かった観艦式ももう終わりの時間を迎えた。すでに海兵さんたちは船上に移って、俺たちの方に手を振ってくれている。その中には田辺さんの姿も見て取れた。
「なぁ……お前ら、どうだった?」
ポツリと、まるで独り言のように俺は呟いた。すると、まずは隣にいたトラが小さく頷き、
「最高だった。何だかさ……よくわかんないけど、こう、胸の奥が熱くなるみたいなさ。そんな感覚だった」
同調するように千尋も首肯し、
「うん。一体感って言うのかな? 今まで経験したことない感じだったけど、すごく楽しかった」
やはり二人も俺と同じ感想を抱いたようだ。しかも、俺より吹奏楽経験の長い二人の事だ。おそらく、今までの常識が覆された気分なのだろう。
「私もさ。最初は、コンクールで金賞取るのが全てだと思ってたけどさ。まぁ……こういうのも悪くないかな?」
そう告げた燐の顔はまるで憑き物が落ちたかのように清々しいものだった。
さらに、彼女は歌うように告げる。
「ねえ、みんな」
一呼吸。
「次はさ。次、またここで吹くときはさ……もっと上手くなろう。それで、もっと多くの人を魅了してあげよう」
彼女の言に俺たちは力強く頷きを返す。
ああ、そうだ。まだ俺たちには、来年がある。
今回の演奏では弱点や改善点も見つかった。だから、次はそれを克服して、今持っている以上の実力をつけて戻ってこよう。
正直、俺が上手くなれるかどうかはわからないが……恐怖はなかった。少なくとも、俺には仲間がいる。家族がいる。楽器たちがいる。それだけで、誰にも負けないと思えるほどの自信と勇気がわいてきた




