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百六十七話目

 あれからしばらくして、吹奏楽部の一年は全員で固まって行動していた。と言っても特にすることもないので今は出店の料理を堪能している。

「で、次は何食べる?」

「……まだ食べるの?」

「当然! まだまだお金はあるしね」

 どん、と誇らしげに胸を叩くトラに冷ややかな視線を向ける燐。しかしそれも当然だ。トラはすでに出店の半分を制覇している。むしろ、ここまでよく入るものだと、俺は普通に感心してしまった。

「じゃあ、何か買ってきなよ。ここで待ってるからさ」

 リンゴ飴を舐めながら千尋が告げる。さすがに女子は小食なのか、それとも体重の増加を気にしているのか、そこまで食べていない。二人とも全然太っていないのだから、こういう時ぐらいは目を外してもいいと思うが、まぁ、そこは事情があるのだろう。深く詮索すると痛い目を見るのは確実だし、ここは黙っておくのが吉だ。

「じゃ、行ってくるから待ってて」

「おう。行ってらっしゃい」

 タコ焼きの屋台の方に向かっていくトラを見ながら、燐が小さくため息をこぼす。

「本当、演奏の時と大違いだよね」

「わかる。いつもあのテンションならいいんだけどね」

 散々な良いようだが、演奏に関しては二人も一定の評価をしているらしい。と言うか、一年全員がそれぞれを尊重し合っているというのが正解だ。自分たちに足りないところを補い合って、上手く調和を保っている。案外バラバラなようでいいチームだ。

 と、そこで不意に千尋が遠くの方を見やり、

「ねえ、あれって能代先輩と口咲先輩だよね?」

「ん? ああ、そうだな」

「あれって射的の屋台だよね?」

 確かに射的の屋台だ。だが、様子がおかしい。先輩たちの目が完全に座っており、店主の目は泳ぎまくっていた。おそらく……景品のほとんどがやられたのだろう。時折聞こえてくる歓声がそれを裏付けていた。

「あっちには二年の先輩たちがいるよ」

 燐が指差した方を見ると、二年の先輩たちが同級生らしき人たちと話し込んでいる。見るからに楽しそうで、会話も弾んでいるようだ。

「こうしてると色々見えてくるよね。学年ごとの特徴とか、個人のくせとか性格とか」

 燐がポツリとつぶやき、それに千尋が頷きを返す。

 彼女の言うとおり、見ていると中々に面白い。

 桶田先輩とトラは二人して屋台の制覇を目指しているようだし、口咲先輩と能代先輩は勝ち取った戦利品を一つ一つ丁寧に袋に詰めていた。二年生は一か所に固まって、ずっと楽しそうに話しこんでいる。

「なんかさ、久々だよね。こんな感じ」

「ああ。本番が近付いてからはずっと忙しかったし、気も張っていたからな」

「ま、本当の地獄はこれからなんだけどね」

 燐が意味深にポツリとつぶやく。普段の彼女らしからぬ好戦的な口ぶりで、かつ口の端を邪悪に歪めていた。こいつとは長い付き合いになるけれど、はっきり言って今までこんな顔は見たことがない。

 だが、千尋は別段戸惑っている様子も見られない。もしかしたら、吹奏楽部にいるときだけ見せる表情を今俺は見ているのかもしれなかった。


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