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百五十三話目

『よろしくお願いします!』

 木曜日。もう日数も少なくなってきたこともあって全員気合いが違う。それは先生も同様のようで、

「よし、やろうか」

 静かながらも熱い闘志を秘めた声音で告げる。ややあって指揮棒が振り下ろされるが、それも激しさを増している。当然それにつられて俺たちの演奏も加速していき、徐々に熱を帯びていく。

「――ッ!」

 昨日あれだけ言われたからだろう。フラストレーションが溜まっている人たちはそれを晴らすかのように吹き進めている。決してミスをしてなるものか、という一種の狂気めいた覚悟すら見え隠れしていた。

 この曲――軍艦行進曲は観艦式という行事でのみ、この吹奏楽部では扱われる。つまり、これが何を意味するかというと――比較されやすいということだ。

 曲が違えば、難易度も違う。だが、同じ曲を吹くとなれば話は別だ。それこそこの島にはお年寄りがたくさんいて、俺たちの演奏を毎年聞いている。そんな人たちに聞かせるのだから、生半可な演奏では見透かされてしまう。

 ――これは以前MCから聞いたのだが、ウチの黄金時代の数世代後。つまり、その人たちが全員卒業してから数年経ったときの演奏は酷かったらしい。なまじ年代が近いばかりに比較の対象とされ、酷評された。

 彼女たち曰く、そこまで悪いものではなく、むしろいい演奏だったそうだ。しかし、違った。黄金時代のインパクトが強すぎたばかりに霞んでしまった。

 幸か不幸か、俺たちの世代に近い世代ではそういう話は聞いたことがない。そこまで比較されてしまうということはなさそうだが、油断はできない。気を緩めれば、その段階ですべてが終わるのは経験上理解していた。

「――ッ!」

 ますますボルテージが上がっていき、それと同時に俺の中で熱が上がっていく。まるで自分が列車となり、ガンガンに火をくべられているようなそんな感覚だ。走り出しそうで、叫び出しそうで、狂いそうなほどの心地よい熱量。最高だ。

 そこでチラリと先生と視線が交叉する。彼は顔を真っ赤にして指揮棒を振り回しながらも、楽しげに笑みを浮かべていた。おそらく、他のみんなもそんな感じだろう。音がそう語っていた。

 演奏を続けていけば疲れも出て来るというのに今それは感じられない。あるのは歓喜と興奮と情熱のみ。今、この場で俺たちの音は一つになって混じり合い、溶け合って、形を成していく。

「――ッ!」

 いよいよ曲も最後に差し掛かった。集中力と熱量を保ったまま吹き続け、

「ッ!」

 終えた。しばし余韻を残して、全員が楽器を下ろす。見れば、誰もが顔を真っ赤にして、しかし楽しげに口の端をニッと吊り上げていた。

「……この感覚を忘れないように。以上」

『ありがとうございました!』

 おそらく、これが、俺たちにできる最高の演奏だ。後は……これを本番に持ってくるだけである。


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