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百五十一話目

「ふぅ……」

 合奏というのは意外と体力を使う。吹奏楽というと座ってばかりで楽そうだと、よく人から言われるが実はそうではない。曲によっては百メートルを全力で走ったかのように汗だくになることもある。この曲もその類だ。

 考えてみてほしい。数分間の間、ずっと腹筋に力を入れっぱなしで吹き続けるのだ。その上、ミスをしたら崩壊するという無言のプレッシャーにさらされる。これは精神的に、そして肉体的に削られる。

 そのため、こうやって合奏が終わった後はみんな疲弊しきっている。楽そうにしている人は誰もいない。スタミナがある人はそれに見合うだけの演奏をしているのだ。疲労度に大した差はない。

 いつも通り反省を終え、楽器の水抜きを行う。最初こそ手間取っていたが、今ではすっかり慣れたもので調子が良ければ一番最初に片付け終わる時だってある。もちろん、クオリティーも抜群だ……そうでないとMCたちにどやされてしまう。いや、俺が単にキチンとやりたいと思っているだけでもあるが。

「さて……それじゃ、行くか」

 そっと立ち上がって準備室の方へと向かっていく。チラリと横を見るとパーカッションパートが打楽器の手入れを行っている。曰く、指紋が付きやすくて大変だそうだ。チューバもそうだが、楽器の手入れというのは存外大変である。これも入部しなければ知らなかったことだ。

 そんなことを考えているうちに準備室の前へ到着。行儀が悪いが足で扉を開けて中へ入り、

「それじゃ、お疲れ」

 二人を所定の位置へと戻し、マウスピースの洗浄を行ってから退室。今日もやりきったという満足感が俺を包んでいた。そして外に出ると、トラと視線がピタリと合う。互いに口の端を吊り上げ、

「お疲れ」

「おう、お疲れさん」

 労いの言葉をかけあった。近くに置いてあった鞄を持ちあげて、二人で歩きだす。

「今日も疲れたねぇ……」

「若いくせに何言ってんだよ」

「もう俺なんか小学生からしたら爺だよ。早いねぇ、こうして年取っていくんかね?」

 何だかしみじみと言ってみせるトラ――何だかその言い方がどことなくフーテンの寅さんを思わせた。と、そうして話しているうちに三階まで到着。が、そこでトラがふと何かを思い出したかのように手を打ちあわせ、

「やばい……チューナー付けっぱなしかも。戻ってみてくる」

「はぁ? お前ちゃんと管理……」

 あれ? 待てよ。俺二人を戻したまではいいけど、楽譜置きっぱなしじゃないか?

「やっぱり戻るよ……ってレイも?」

「……おう」

 何だか気恥しくて互いに顔を見れなかった。やはり、俺たちはまだまだだと実感させられる。ちなみに、トラは単なる気のせい。俺は楽譜どころかチューナーもつけっぱなしという体たらくだった。無論、トラから笑われたのは言うまでもない。


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