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百五十話目

 夕方五時。合奏の時間だ。

「それじゃ、始めようか」

『はい!』

 日数が縮まっていくにつれて、みんなの表情も険しさを増していく。だが、そこに力みは感じられない。心は熱く燃えたぎらせているが、頭は冷静さを保っている。いわゆる、ベストな状態だ。

「……っ!」

 やがて勢いよく振り下ろされる指揮棒。それに従って進んでいく合奏。軽快に、リズミカルに、かつ荘厳に、奏でられていく。だいぶイメージが共有されてきたらしく合奏にも一体感が出てきた。これはいい兆候だ。

「――ッ!」

 たまにミスが起きると、反対側の手で指示を出す先生。それ以外にもこちらに視線をよこして訴えかけてくる。目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。

 一度目の合奏は終了。そこで先生が注意を呼び掛け、俺たちがそれを楽譜に書き込む。そして、休むことなく振り上げられる指揮棒。構えられる楽器たち。すぐに二回目が開始された。

 一回目と比べて、間違いが少ない。これは指示を受けて注意をしているからでもあるし、単にエンジンがかかってきたということもある。

 スロースターターが意外にもうちの部活には存在する。例えば、燐や大暮先輩。後は、口咲先輩などだ。無論、それを少しでもマシにするために基礎練や個人練をするのだが、合奏となると話は別のようで、エンジンがイマイチかかりにくいらしい。

 それだと本番は大変なように思われるが、実はそうではない。そのためにリハーサルが行い、そこでエンジンを無理やりかけるそうだ。実際燐は中学の時そうやって乗り切ってきたらしい。

 徐々に、全員のテンションが最高潮に達する。演奏の質が高められ、音がノッテいく。この瞬間が最高だ。

 先生曰く――合奏とは電車だそうだ。電車が走るにはそれぞれのパーツの力が不可欠となる。

 指揮者は御者。馬車全体をコントロールし、演奏を指揮する。

 トランペットとフルートは馬。率先してメロディーを奏で、演奏をリードしていく。

 クラリネットとサックスが車輪。これが円滑に動くことで馬車――つまり演奏を加速させていく。

 トロンボーンが馬と籠を繋ぐ連結部。ここがしっかりしていないと演奏がバラバラになって纏まりがなくなってしまう。

 パーカッションは馬車籠。乗客――つまり観客を纏めると同時、演奏に乗せていく。

 そしてチューバは……走るのに不可欠な大地だ。いや、馬車のパーツではないだろうと思ったが、確かに必要ではある。またここでも疎外感を受けたのは内緒だが。

 ――そうしているうちに二順目が終了する。また先生の指摘が入り、三順目。

 さて……俺も負けてはいられない。合奏中に学習し、成長し、進化しなくては。それを繰り返せば――みんなに追いつけるのだから。


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