百四十八話目
部活の帰り道。久々に今日は一年生全員で帰っていた。もちろん話題は燐の事に関してである。
「にしても、すごいな。副部長候補なんて」
「たまたまだって」
ウチの部活の形式は少し特殊だ。部長が一人いて、副部長は二人いる。そして副部長の方は三年生と二年生から選出される。だが、先輩たちが卒業した後は二年と一年から再選考が行われる。今回はあくまでそれの予行ということだろうが、それでも十分すごいことだ。
「ま、妥当なところじゃない?」
トラが大して興味なさそうに告げる。こいつは自分が楽器を吹ければそれでいいという、ある意味一番演奏家気質なのかもしれない。
「でも、まだ確定じゃないんでしょ?」
「うん。今回はあくまで一年生の中からも観艦式当日にしきってくれる人が欲しいから暫定みたいな感じなんだって」
とすれば、先生たちの考えは正しい。燐は中学時代に部長だったし、俯瞰的な視点を持っている。あくまで客観的に物事を見るというのは一つの才能だろう。きっと観艦式でもそれは役立つはずだ。
チラリと横を見渡すと、さらにその考えは強まっていく。
トラは見ての通りだし、意外と千尋もこういった役柄は向いていない。
彼女は見かけによらず激情家だ。つまり、一度こうと決めたら梃子でも動かず、しかもキレると手におえない。このタイプで厄介なのは、何をするにも主観的であるということだ。
確かに、自分の意見を持つというのは非常に大事なことだ。だが、それに固執しすぎてしまえばもはやそれは害悪にしかならない。が、彼女は先導者には向いていないだけで支援者には向いている。
一度この人物についていくと決めたら、それこそ身を粉にしてでも支援してくれるのだ。もし自分が部長であったならばそれほど頼もしいことはない。肯定者がいるというのはそれだけで貴重なのだ。
ちなみに俺は……たぶん、向いていない。メンタルが紙だし、何より融通が利かな過ぎる。これはいつも言われていることだ。何というか、思考が固定化されやすいのだ。一度思い込むとそれにしがみついてしまう。これは俺の悪癖の一つだ。
「ま、まだ決まったわけじゃないし気楽にやるよ」
「そうだね。私たちも何かできることがあったら手伝うよ」
燐と千尋は互いに頷き合う。一方でトラはぼんやりと空を見上げていた。つられて視線をやると今日は月が雲にかかってよく見えない。明日は雨が降りそうだ。
「ねぇ、みんな」
『?』
トラの呼び掛けに全員の視線が向く。すると、
「今回さ、いろいろ迷惑かけてごめんね」
『……は?』
「いや、合奏なんかも俺のせいで止めたり、話し合いなんかもさせちゃったしさ。本当、ごめん」
珍しく真面目な表情をしたトラ――だが、だからこそ、笑ってやる。
「何言ってんだよ。それなら俺の方が合奏止めてたじゃねえか」
「いや、でもそれはレイが初心者だからで……」
「そんなの関係ねえよ。どちらも合奏を止めたことに変わりない――結果論だがな」
「そうそう。そんなに気に病むことはないよ」
千尋も同意の頷きを見せる。すると、トラは少しばかり嬉しそうに口元を歪め、
「ありがとう。みんなに会えてよかった」
なんて、らしくないことを言った。頭でも打ったのか?
「っていうか、そういうのは普通本番が終わってから言わない? 今言うと何かのフラグみたいなんだけど」
ゲーム脳の燐が告げる。確かに言われてみればそれらしいセリフだった。
「ごめんごめん。これからは気を付けるよ」
カラカラと楽しげに笑うトラ。もしかしたら、酔っていたのかもしれない……おそらく自分に。本番を前にして、何かを語り合う。いかにも男が好きそうなシチュエーションだ。きっと本か何かで読んだのだろう。できれば、もっと別の時にしてほしかった。




