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百四十六話目

 今日は久々に基本に立ち返って基礎練を多めに行う。先ほども言ったとおり、今俺は重要な分岐点に来ている。だからこそ、あえて基礎をもう一度おさらいすることで正しい型を覚えこませるのだ。

『だいぶ音の鳴りがよくなりましたね。いい調子です』

 MCがぼそりと語りかけてくる。彼女としても俺の成長が嬉しいのか、若干声が上ずっていた。浮き足立っていると言っても差し支えないだろう。

「ま、お前の事だからまだまだとか言うんだろ?」

『あら、よくわかりましたね』

『もう以心伝心って感じじゃない?』

『まさか。そんなことはありませんよ』

 だんだんと二人と親密になれてきたように思う。最初こそ色々とあったが今ではこうして普通に話せているのだから。まぁ、おそらくこれからも衝突は避けられないだろう。意見がまったく一致するなんてそれこそありえない。ましてや、彼女たちと俺は生まれも育ちもまるで違うのだ。むしろ、衝突して当然である。

『しかし……最近は熱くなってきたね』

『ええ。私はこの季節は好きですが、やはりキツイです』

 言われてみれば、もうすぐ六月に入る。ベランダから見える景色も徐々に初夏の様相を見せ始めていた。あれほど咲き乱れて俺たちを歓迎していた桜も今は緑を茂らせてしんなりしている。何だかそう思うとやけに時がたつのが早かったように思えた。

 入ったばかり――あの時はまだ中学の苦い記憶を引きずっていた。だが、それも徐々に緩和されていき、今では完全に払拭したまでとは言えないが改善の兆しを見せ始めている。

 それから、一度打ち込み過ぎて倒れた。あのあと何回か保健室を訪れたのだが、先生は相変わらずの調子。だが、なぜか気に入られたようでこの前なんか花札を教えてもらった……さすがに何も賭けなかったが。

 そして――こいつらと出会った。摩訶不思議、奇々怪々という言葉がぴったりの付喪神という存在によくもまぁ、適応で来たものだと自分でも感心する。いや、確かに彼女たちは命の恩人でもあるのだが、理由はそれだけではない。

 単純に、魅力的だったのだ。楽器として、付喪神として、人として。

 その存在こそ違えど、共通していることが一つ。心を持っているということだ。これは俺の持論だが、心を持っている相手とは少なからずわかり合える可能性がある。もちろん例外もあるが、彼女たちは幸いにもそれではなかった。

 思いやりがあって、温かく。時々怖くて、でも、優しい。そんな彼女たちだからこそ、俺は惹かれていったのだ。わかり合おうと思ったのだ。

『レイ? どうかしましたか?』

『ま~た、ボーっとしてる。悪癖だよね』

「はいはい、悪かったな」

 俺の胸の内を素直に告げたらこいつらはどう反応するだろう?

 怒るだろうか? 笑うだろうか、驚くだろうか? それとも……喜んでくれるだろうか?

 だが……それは今言うことではない。キッチリやることをやってから告げるとしよう。

 俺は大きく息を吸い、楽器に息を吹き込んだ。まるでこの気持ちを代弁するかのように――。


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