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百四十五話目

「よし、それじゃ行こうぜ」

 六限目も終わり、荷物を纏めながらみんなにそんなことを言ってみせる。すると燐とトラはうんうんと頷くも、千尋だけは申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。

「あ~……ごめん。ちょっと今日は日直の仕事で遅くなるかも」

 そう。これも平日の部活の支障になる一因だ。学校という組織に属している以上、こういった雑務からは逃れようがない。実際俺だって何回か遅れそうになったことがある。だからこそ、彼女にふっと笑いかけ、

「了解。先輩たちには言っておくよ」

「ありがとう。なるべく早く終わらせるから」

「おう。それじゃ」

 手を振って教室を後にする。数秒ほどしてからトラがふと口を開いてきた。

「たぶん今日はみんな疲れてるんじゃないかな? 昨日はすごかったしね」

「そういう割にはトラは疲れていないな」

「そりゃあまあ、男の意地ってやつだよ」

「お言葉だけど、女にも意地はあるよ」

 燐からの忠告が入り、トラはおどけた調子で肩を竦めてみせる。何気にウチの女子たちはすごい。男勝りというか、時々男でも驚くような底力を見せることがある。そういう時はたまに自分のアイデンティティを失いそうになるが、むしろ手本にさせてもらっている。

 その気質は付喪神であるMCたちも持っている。やはり彼女たちは人の感情に降れてあのようになったのだから、周囲の影響を色濃く受け継いだのだろう。そう考えると、俺が彼女たちに勝てることは未来永劫なさそうだ。

「レイ、どうかした?」

「ん? ああ、いや大丈夫」

「ならいいけどさ。ほら、早くいこう」

 そう言ってスイスイと先に行ってしまうトラ。俺もその後をついていくわけだが、燐は少し後ろを歩いている。元々彼女は体力がそこまでない上にインドア派だ。俺たちについていくのは至難の技だろう。

「いいよ、先に行って。この時間ならメニュー発表までは間に合うしね」

「そっか。あまり無理すんなよ?」

「それはこっちのセリフ」

 カラカラと笑う燐。というか、俺はそこまで無理をしているように見えるのだろうか?

 いや、確かに無理をしていた時もある。だが、今はそんなことは……ないはずだ。

「……まぁいいか。体調もいいしな」

 以前倒れた時は身体的疲労よりもむしろ精神的疲労の方が大きかった。あれ以降ストレスを抱え込まないようにはしているし、大丈夫だろう。体の方も、適度な休憩を入れてベストな状態を保っている。

 確かに練習をやることは大事だが、それで体調を崩してしまえばプラスどころかむしろマイナスだ。だから、適度に、かつ適切に休息と練習を組み込んでいる。我ながら、冴えているとすら思った。

 そうこうしているうちに四階に到着。ちょうど反対側の校舎では職員室に日誌を持っていく千尋の姿が見えた。途中急ぎ過ぎて何回か転びそうになっており、見てるこっちがハラハラしてしまう。

 何とか無事に提出したのを見終えてから準備室へと入室。そこで俺は口角を吊り上げ――

「よう、二人とも。待たせたな」

 言ってやった。


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